閉塞(へいそく)感が漂うファッション業界で、新しいビジネスモデルの構築に邁進(まいしん)する若手起業家がいる。今までにないサービスや仕組みを生み出し、情熱をエンジンに挑戦を続けている。彼らはどんな未来を思い描いているのか。20~30代の起業家に聞いた。
☆スタイラーCEO 小関翼さん
☆キッズコースター社長兼「ティートトウキョウ」デザイナー 岩田翔さん
☆イロヤ社長兼CEO・大野敬太さん
☆ウツワ代表 ハヤカワ五味さん
☆レリック代表取締役兼CEO・北嶋貴朗さん & CMO兼Co-Founder・江城祐太さん
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スタイラーCEO 小関翼さん
ネットでつなぐ 接客のプロ×消費者
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★もっと楽しく
「つながりでファッションを楽しくしたい」。小関翼さん(33)率いるスタイラーは、アパレルショップと消費者をネットでつなぐコミュニケーションプラットホーム「スタイラー」を開発、昨年7月にサービス提供を開始、12月にはスマートフォンアプリをリリースした。消費者が欲しい商品の漠然としたイメージや買い物の悩みを投稿し、参加店のスタッフが返信するSNS(交流サイト)感覚の新サービスだ。SNSの登場でユーザー同士では容易につながれるようになったが、プロとつながるのは実はなかなか難しい。スタイラーはプロによる接客サービスをオンライン上に持ち込み、購買・販売の機会を広げている。
日本では、ファッションを含めたライフスタイル分野でのEC化率はまだまだ低い。その実情を前職のアマゾン時代に目の当たりにした。アマゾン社員はよく自社サービスを利用して買い物するが、服だけは別。多くの社員がネットで情報を集めてオフラインで購入していた。小関さんは元々ファッション好き。さらに東京大学大学院で法律とインターネットについて学んだこともあり「ネットで何かしたい」と考えていたところに、ファッション分野での「コミュニケーションとコマースを融合した仕組み作り」を思いついた。
海外に目をやると、ネット上での接客サービスはすでに発達している。例えば中国のタオバオはチャット機能が前提であり、むしろその機能がないと物が売れない。スタイラーでも「ネット上でコミュニケーションすることで消費者の購買を手助けし、そのコミュニケーション自体が価値となるようなサービスを提供したい」という。
手応えは上々だ。スタイラー経由の販売では、17万円のコートや4万円のスニーカーなど高単価商品が売れている。ファッション分野で主流となりつつあった「安い物はネットで探し、高い物は店頭で買う」という考えを覆した。
★1年で海外へ
設立から1年、今年は攻めの姿勢を強める。まず、約120の参加店を16年末までに600に拡大する。今月下旬からは店員1人につき1アカウント開設できるようにする。今までは1店1アカウントだった。夏以降はスタイラー内に決済機能も付ける予定だ。夏には台湾でオウンドメディア「スタイラーマグ」の北京語版をスタートし、16年後半には越境ECも始める。
もう一つ新たな試みが、4~6日に開くITとファッションの未来を描くイベント「ファッションテック・サミット♯001」だ。トークセッションのほか「未来のファッション」をテーマにしたハッカソンなどを企画する。自身の経験から、こうしたスタートアップハブの必要性を感じていた。新しいアイデアを持っていても「どうしたらいいか分からない」人と様々な専門家をつなげる場を作ることで新しいうねりを生む。「熱い思いを持つ人がまとまった方が社会的なインパクトも与えられると思うんです」
キッズコースター社長兼「ティートトウキョウ」デザイナー 岩田翔さん
協業で互いにメリット ブランドを続けることが責任
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★フラットに
「クリエーターやデザイナー同士が協業することで、お互いにメリットを生み出せる仕組みを作りたい」と話すのは、岩田翔さん(30)。自身もレディスブランド「ティートトウキョウ」のデザイナーであり、同時に〝クリエーターがシェアするデザイン会社〟のキッズコースターの社長でもある。同社が擁するブランドの数は、ティート含め現在レディス5、メンズ1、社員数は本人含め5人。いわば、デザイナーの互助組織のような形態の会社だ。
もともとは、多くのデザイナーと同じように、自分のブランドだけをやっていこうと思っていた。しかし、自分より才能があると感じた同世代のデザイナーが「ビジネスに対してピュア過ぎて」、消えていくケースを見た。「才能はあっても不器用な人はいる。そういう人に、同じだけのリスクを背負って手を差し伸べる会社があったらいいんじゃないかと思った」のが、創業のきっかけだ。
協業によって、一つの口座から生地メーカーや縫製工場と取引をすることになるので、生地値や縫製加工賃が下がる。また、生産面のノウハウも共有することができる。岩田さんが社長として、各ブランドのための融資も取り付けてくる。所属するデザイナーには、そうしたメリットがある。
しかし、岩田さんと所属デザイナーとは上下の関係ではなく、あくまでフラットだという。「時代性もあって、デザイナーは消費されることに対してすごく敏感で、囲われることを非常に嫌がる」。デザイナーとして、自身もその気持ちがよく分かるからこそ、所属するブランドの名前を不必要にひけらかしたりはしない。「会社をブランディングしたいわけじゃないから、彼らのブランドに僕の尾ひれが付く必要は無い」と考えている。
★構造を作る
「所属するデザイナーが失敗して負債が膨らんだり、裏切ったらどうするのか」と心配する人もいる。「でも、リスクのことばかり言ってもしょうがない。それよりも、協業によってどうメリットを生み出すかを考えるのが経営」と言い切る。「型にはまったやり方で経営ができる時代は十数年前に終わった。クリエーティブの面と一緒で、会社のシステムも十人十色でいい。会社の構造をデザインすることも大切です」という言葉が頼もしい。実際、こうした会社形態を取ることで、外部から受ける仕事が増えたという。
一方で、岩田さんのこのスタンスに対し、「経営のことばかり考えるのではなく、もっとデザインをやるべき」と忠告する人もいる。「こういうやり方って、純粋にファッションをしてきた人には邪道なのかも。でも、僕はブランドを継続することが、巻き込んでいる工場や取引先への最低限の責任だと思う」と話す。続けるために、日々会社の形を模索している。「僕はファッションに関して凡人。だから、考えることだけは努力してやっていきたいと思っているんです」
イロヤ社長兼CEO・大野敬太さん
ファッション小売業に革新を
異業種と協業し業界の発展に
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「新しいアプローチでファッション小売業にイノベーションを起こしたい」とは、イロヤ社長兼CEO(最高経営責任者)の大野敬太さん。「色から、モノを好きになる」をコンセプトに、毎月のテーマ色に沿ってファッションを提案するECサイトとセレクトショップ「イロザ」を運営している。色にフォーカスした商品の集積・販売など新しいビジネスモデルの構築に挑んでいる。
★ノウハウ学ぶ
大野さんは学生時代、神戸の古着屋で販売員をしていた。小規模な店で、服の買い付けなどオーナーと二人三脚で店舗運営まで深く携わっていた。一方、周辺のアパレル店を含めた店長職の高齢化などを目にし、ファッション小売業の未来に不安も感じていた。「当時は服が好きという思いはあるが、服をうまく売るための商習慣まで気を回せていなかった」と振り返る。そのため、大学卒業後は「服を売る過程でどんなノウハウが必要か」を学ぶ道に進んだ。
新卒で広告代理店に入社、アパレル企業を中心に担当し、大手ファッションECサイトのテレビCMなども手掛けた。その後はネット関連の事業会社に転職し、メディアとEC、実店舗の連動について学び、投資会社にも勤務。自身が必要と感じていた「服に対する情熱と情報技術や事業運営、資金調達などのノウハウをうまくリンクさせて商売をする術」を身に付けた。13年秋にイロヤを設立、約半年後に路面店とECサイトを同時に開設した。
★〝色〟切り口に
色の非言語性に着目し、店のコンセプトを定めた。「見据える先はグローバル。〝色〟切り口で、海外の人にどれだけアプローチできるか」考えた。「色が購入の決め手になるとまでは思わないが、購入の入り口としてはすごく重要。好きなブランドの中でも、色によって買う、買わないを決断する。そういう購買の判断基準を仮説・検証したかった」という。ここ2年間は全国の主要都市の商業施設へ期間限定出店を重ね、色による購買データを蓄積・分析してきた。大学との共同研究も近々、開始する予定だ。
色が切り口の商品提案は、価格やブランド名に依拠しないことも強みだ。EC、店の開設から約2年、セールは一切していない。今年度の売り上げはEC・実店舗合計で前年比68%増で推移している。
自社で培ったノウハウを、事業者向けサービスとしても提供している。オムニチャネルがバズワード化してから数年経つが、「正しい方法はまだどこも手探り状態」が続く。それはシステムを外部に委託するケースが多いなど「ノウハウが蓄積できないことによるものだと思う」と指摘する。その点、同社はオムニチャネルに関するシステムの開発・構築をすべて内製化できており「この2年間である程度の答えが見えてきた」という。自社のオムニチャネル化の精度を一層高めながら、大手企業や地方小売店のオムニチャネル戦略支援を行っていきたい考えだ。
当面の目標は上場だ。そこに向けて異業種協業など積極的にアライアンスを図っていく。「当社はそのハブを担えると思っている。様々なパートナーと手を組み進化していく。それが結果的にファッション業界の発展につながればうれしい」
ウツワ代表 ハヤカワ五味さん
同世代の悩み解決したい
胸が小さい女性向け下着開発
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「同世代の女性のコンプレックスや悩みを解決することで、その人の人生を良い方向へ変えられる商品を開発していきたい」と話すのは、大学在学中に胸が小さい女性に向けたランジェリー「フィースト」を立ち上げ、起業したハヤカワ五味(20)さん。デザイナーとして物作りに打ち込む一方、経営者としてクールな戦略的思考でファッション業界の未来を見つめる。
★内面的な救い
「中学3年生の頃にロリータファッションに出合い、カワイイ服を着ることで自分に自信が持てるようになり、内面的にも救われた」のが、物作りに目覚めたきっかけ。最初は、買えないから作ろうと、自分用にプリントTシャツを作成。ブログでも販売した。高校時代には切り取り線付きタイツを販売し、小遣い程度は稼ぐようになった。
フィーストを立ち上げたのは、大学1年の夏。受験勉強から解放され、好きなことをやろうと入学から2カ月でワンピースのブランド「ゴミハヤカワ」を作った。その後、「前々から温めていた新しいことに挑戦しよう」との思いから、あえてニッチな市場を攻めた。小さな胸の人はもちろん、ワイヤ入りブラがつけられない、アンダーが細すぎて市販品が合わないなど既存の市場のマイノリティーの人たちに喜んでもらうために商品を開発した。
★喜びがやりがい
「当初、商品は自分で手作りするつもりだったが、300件という予想以上の注文をもらい、慌てて小ロットで生産が可能な工場を探した」と振り返る。ネット販売サイトを開設し、ダイレクトな販売を開始。15年1月に会社、ウツワを設立した。フィーストは毎月、5~10の新作をサイトで更新する。「毎回、新作発表する産みの苦しみはあるが、SNS(交流サイト)などでお客様の喜ぶ声や反応が可視化されているのでやりがいになる」と強調する。今年2月にはラフォーレ原宿で期間限定店も開いた。今後は卸販売にも対応する予定だ。
初年度の売上高は約3000万円。法人化した当初の10倍になった。今後も同水準のペースで成長したいとしている。そのためにも、在学中に2、3のブランドを立ち上げる予定だ。「自分は消費者と同じ視点に立ち、既存のアパレルの問題点を突くような、ニッチでも話題性のあるブランドを開発するつもり」だという。
重要なのは、その世界の「第一人者」になること。既存企業のヒントになり、業界全体が変わるのはいいことだというスタンスだ。最近、起業する人はIT(情報技術)関連がほとんどだが、物を作って売るのは商売の原点であり、顧客との信頼関係で堅実な成長が見込める事業だ。「今後はさらにブランディングに磨きをかけ、戦略的なビジネス構築を目指す」と経営者としての姿勢を貫く。
レリック代表取締役兼CEO・北嶋貴朗さん
CMO兼Co-Founder・江城祐太さん
「世界初」のCF基盤で市場拡大へ
販路を多様化、成長促し世界へ
■北嶋貴朗 86年生まれ。ディー・エヌ・エーを経て、15年にレリックを設立。
■江城祐太 85年生まれ。外資系コンサルティングファームやチームラボを経て、北嶋さんと共同でレリック設立。
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ディー・エヌ・エーのトップ営業マンだった北嶋貴朗さんとチームラボ出身の江城祐太さんが昨年立ち上げたのが、企業の新規事業の支援などを行うレリック。サザビーリーグが主催する「リアンプロジェクト」の運営協力が目立った仕事だが、現在は2月に立ち上げた「世界初の形態」というクラウドファンディング(CF)のプラットフォーム「エンジン」の運営に力を注いでいる。「CF市場は話題ほど拡大していない。自分たちのサービスで盛り上げていきたい」と意気込む。
★一気通貫で
同社のサービスは、ピッチイベントなどの運営ASPサービスの「イグニッション」と、このほど始動させた「エンジン」から成る。6月には営業やマーケティングを支援する「ブースター」も始める予定だ。同業他社が手掛けるCFとは異なり、プロジェクトの構想(イグニッション)から事業化(エンジン)、成長(ブースター)まで、サービスを一気通貫で引き受けるのが強みだ。
特許出願済みであるチケット購入型のCF「エンジン」とは何か。購入型のCFは不特定多数の人が応援したいプロジェクトに小口で出資、出資者はそのリターンとして商品やサービスを受け取る仕組みだが、エンジンの場合は、そのリターンをチケットで返し、他者へのギフトにしたり二次流通させることもできる。
「通常のCFは出資者である個人とプロジェクトオーナー間で完結するが、エンジンは購入したチケットを友人に贈ったり、複数枚購入して二次流通させてもいい」。利用が本人にとどまらず多岐に渡るため、出資(=購買)機会の増加が期待できる。
例えば、あるプロジェクトで人気が高まりそうな製品の先行予約の権利をチケットとして購入し、個人でオークションにかけることもできる。
同社は楽天とヤフーショッピングなどのモールにも出店しており、プロジェクトオーナーは、チケットの販売拡大にも役立てられる。複数モールに出店していても、モールとプロジェクトオーナーの管理ページはひもづけられており、一つの管理画面で販売動向を確認できる。
★ECから奪う
こうなるとCFというよりはECに近い立ち位置だが、「CFは運営側のワードに過ぎない。寄付文化に乏しい日本の場合は、購入型CFはECと同じ」。確かに、プロジェクトの背景に共感して出資し、結果としてモノを受け取るという意味ではECとも言える。
「サービス含め13兆円ある国内のECに比べ、購入型CF市場は20億~30億円ほどに過ぎない。EC市場から奪っていきたい」。個人とプロジェクトオーナー間にとどまる通常のCFを超えて、流通を多様にすることでプロジェクトを大きくしたいという思いがある。今年の夏頃には、エンジンの海外対応も始める予定。事業の立ち上げから成長に必要な機能をワンストップで提供することで、国内にとどまりがちな事業を世界にまで広げていきたい考えだ。