ファッション業界の採用は新型コロナによる環境の悪化や業績不振などで、減少傾向が続いていた。しかし、アパレル消費の回復傾向と、この間の採用の抑制が続いたことなどで売り手市場に変わってきている。そこで、今回は「ファッション・アパレルの人材関連のサポート企業に聞く」がテーマです。
学生の動き鈍くリアルの参加減少 売り手市場で新卒は激戦
レディ・トゥ・ファッション代表 高野聡司さん
ファッション企業の人材採用をウェブサービスで支えるレディ・トゥ・ファッション。24年春新卒採用は「完全に売り手市場となる見通し」で、合同説明会などリアルの採用イベントも一部で再開している一方、学生の動きは鈍いという。現状と今後の見通しについて、高野聡司代表に聞いた。
■販売職は奪い合い
――事業内容は。
16年秋の設立で、ファッション業界に特化し、新卒と中途の求人サイトと、個人間のマッチングアプリの運営、採用イベントの開催などを行っています。
――ここ数年のファッション業界の新卒採用の状況は。
19年春卒を100とした時、コロナ下となった20年春卒の採用予定数は50%に減り、21年春卒も採用を中止や縮小する企業が多く30%に減少しました。22年春卒で70%、23年春卒でほぼ100%に戻りましたが、予定した人数を確保できなかった企業が目立つため、24年春卒は約120%に上振れし、完全に売り手市場となる見通しです。
若年人口の減少を背景に全産業的に人手不足で、コロナ下で解雇が増えた飲食とファッション産業は、さらに採用が厳しい状況です。販売職は奪い合いの状態で、インバウンド(訪日外国人)の入国制限解除を受け、ラグジュアリー系が一足早く昨年半ばから採用を強化し、派遣社員の時給は1600円から3000円台に上昇しています。優秀な人材を他社からヘッドハンティングしたくても中途採用で集めきれず、現場の人手不足と新店の増加を受け、新卒採用も激戦となっています。職種別に見ると、デザイナー、パタンナー職も中途採用を再開しましたが、新卒採用は引き続き横ばいであまり増えていません。新卒では総合職の採用が多いですが、学生の志望職種ではEC担当がPR担当を上回る人気となっています。
――企業の採用活動や学生の就職活動の時期の変化は。
コロナ前のように早期化せず、3月から本格的に開始する企業が主体です。プレイベントや早期採用を行うという話もあまり聞きません。学生も急がなくても困らないせいか、動きが鈍い。学校主催の対面の学内セミナーにも、学生が参加しない問題が発生。採用イベントはオンライン併催にすると登録者が集まるものの、参加者の減少に悩むリアルのイベントが多いです。人気企業の説明会や対話が必要な面接はリアルで参加しますが、一方的な話を聞く説明会や志望度の高くない企業の一次面接は、慣れていて楽なオンラインの方を好む傾向が強いです。
――合同説明会の参加状況は。
当社ではコロナ前は年2回、8月に10社前後、2月は20社規模の合同企業説明会を開き、学生もリアルで8月は約300人、2月は1000人以上が参加していました。コロナの感染拡大が始まった20年2月は、二十数社の企業と学生600~700人、21年と22年はオンライン開催で10社が参加しました。今年は2月18日にコロナ前並みの20社の参加で、久々にリアルで合同企業説明会を行いました。期待に反して学生はコロナ前の20年の半分、300~400人の参加にとどまり、ライブ配信は600人以上が予約するなど、関東圏の学生もオンラインに流れました。1、2月に開催した他社の合同説明会も、集客がやや伸び悩んでいるようです。
――合同説明会の運営の工夫は。
会場はベイクルーズやワールドの本社内など、ファッション業界らしいカジュアルでおしゃれな空間を選び、この業界ならではの楽しい雰囲気作りを心がけています。企業がブースに分かれ、不特定多数の学生に向けて一方的に話す形式ではなく、以前からテーブルを囲んで双方向で交流できるスタイルで実施。学生には私服で参加してもらい、企業と対等に話せる環境作りを重視しています。
■接点の機会増やす
――24年春卒採用の今後の見通しは。
3月1日に大手就職サイトの採用ナビで個別企業説明会の受け付けが始まり、多くの企業と学生が本格的に動き出しました。4、5月に面接、6、7月に内定と進みますが、23年春卒も2月まで採用を続けていた企業もあり、24年春卒も採用が長期化しそう。物価高や他産業での賃上げの流れを見て、例年以上に給与面を企業選びの基準として重視する学生が増え、コロナで打撃を受けた飲食とファッション業界を敬遠する学生が多いです。
――ファッション業界を志望する学生を増やすには。
合同説明会などのほかにも、採用に直結しない学生が業界と接点を持てるリアルの機会を増やすといいのでは。気軽に人事など業界の人から話を聞ける場を作る工夫が必要かもしれません。販売職から始まっても将来は本社などでキャリアアップできる道筋が見えるようにし、働く環境も改善しないと、業界志望者は増えないと思います。
――学生に向けたメッセージは。
最近は新卒入社後数年で辞める人が増え、「社会人経験があっていい」と辞めてもあまり支障はなく、採用してくれる企業も多い。終身雇用志望者が少ない今なら、初めは小さな会社の方がいろんな経験を積め、希望の職種や大手などへの転職に有利かもしれません。売り手市場を追い風にしつつ、視野を広げて自分に合う会社を探して下さい。
(繊研新聞本紙23年3月15日付)