古い建物、無垢(むく)な木材、石、植物、余白のある空間――京都を歩いていると、雰囲気の似た店が増えていることに気がつきます。ファッションでも技法やシルエット、素材、スタイリングが突然広まり、似た表現であふれることがあります。私たちはそれを「トレンド」と呼んでいます。しかし、なぜ一つの表現は波及していくのでしょうか。その仕組みには「記号化」が関係していると感じています。
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感覚を想起
記号化とは、抽象的なアイデアや感覚を受け手が読み取れるフォーマットに置き換えることです。例えば「静けさ」という感覚は目に見えませんが、石や余白、ゆっくりとした時間を感じさせる植物などを使えば、それを表現できます。言葉で説明しなくても、モノの組み合わせによって、見る人にある感覚を想起させることができるのです。

これはファッションでも同じです。服の色、素材、形、着こなしなどに意味を持たせることで、「若々しさ」「上品さ」といった抽象的な価値まで伝えることができます。その半面、一度「方法」として認識されると、他者に模倣されやすくなります。
模倣の危うさ
セントラル・セント・マーチンズ基礎学科のコラージュの授業でのこと。多くの生徒が写真の輪郭をきれいに切り抜く中、一人の生徒が写真をあえて適当に切り、印刷されていない余白まで残して貼っていました。先生がそれを「面白い」と評価すると、翌日には同じ方法でコラージュを作る生徒が増えたのです。
最初の生徒にはテーマとの関係や自分なりの考えがあったのでしょう。しかし、他の生徒がその背景まで理解したわけではありません。「余白をあえて残す」という部分だけを取り出し、それを面白い方法として使い始め、トレンドとしてクラスに広がっていきました。表現は記号化されることで共有され、方法は模倣されていくものだと実感する出来事でした。
同時に、模倣には危険性があることも学びました。短期間では、誰が最初に始めたのかよりも、見た目の良さや面白さが評価されます。しかし、制作が長期に及べばそうはいきません。他のアイデアとの間に矛盾が生まれやすいからです。一方、オリジナリティーのある表現は時間が経つほど強くなります。自分の考えや経験から生まれた表現であれば、その後の制作にも一貫性を持たせられるからです。
京都で似た雰囲気の店が増えていく現象も、こうした記号化と模倣の結果なのかもしれません。一つの表現が記号化され、その意味が共有されることで、多くの人が同じ表現を使うようになる。それがトレンドを生むのです。しかし、トレンドには必ず衰退があります。ある表現が浸透すると、人はまた新しい表現を求めるようになります。横並びになった表現の中で差を生むのは、表面的な新しさだけではありません。その表現がどれだけ深く、その人自身の考えや経験と結びついているかが問われます。
記号化は、感覚や価値を多くの人と共有する強力な方法です。しかし、それが広がった後に残るものまで、誰かのまねではいられません。横並びになった時、初めてオリジナリティーの奥行きが評価されるのではないでしょうか。

