【店長に役立つページ】百貨店ショップの全力接客㊦

2019/09/15 06:30 更新


 今回は、百貨店売り場を代表するレディス、メンズブランドの店長さんの接客のこだわりを取材した。来店客のニーズ聞き取りや、納得した買い物と次回の来店につながるコーディネート提案など、どの店も全力の接客を行っている。

【関連記事】【店長に役立つページ】百貨店ショップの全力接客㊤

「レリアン」伊勢丹新宿店店長 村杉由香さん

観察力と聞く力、提案力で

会話を重視し、iPadや電子ツールもお客との関係作りに活用する村杉さん

 伊勢丹新宿本店に来て4年半。「訪日外国人や観光客、映画帰りなど買い物目的でない人がフロアに大勢いて、感度の高いお客様が多い店舗」と村杉さん。「接客は売り場作りから。VMDが大事」と話し、周りの店舗を常に観察して自店の改善につなげている。店頭では、キャッチーなものと定番の安心服、いま着る夏物と冬物のコートなど、異なるスタイルを訴求。店の前面のディスプレーや動きの鈍いラックは、1日に何回も商品を入れ替えている。

 遠方から家族で車で来る人、毎月来て1点ずつ買う人、年2回で100万円以上買う人など、60代以上中心に幅広い層が来店。最近は40代前後の働く女性の顧客が増えている。「どんな接客を好むかは百人百様なので観察が重要」で、店長として全ての来店客と1度は言葉を交わすようにし、反応や話の内容で目的を察知。距離感や担当者は相手に応じて選びつつ「着方が分からないと買って頂けないので1点の服に対し、帽子から靴まで10コーディネートくらい薦め、楽しんでもらう接客が基本」だ。

 悩みを聞く力のある販売員が揃っているのが強み。初めの接客時の会話が大切で、スタッフ全員でお客様の情報を共有し、組織的に顧客作りを行っている。お客様に気分よく過ごしてもらうために、新人にも売り場で気付いた時にタイミングや気配りの仕方を教える。顧客の場合はiPadを使い、その場で購買履歴を調べ、手持ちの服に合うスタイリングを提案する。4月からセーレンの「ビスコテックス・メイク・ユア・ブランド」を導入。画面上で仮想試着しながらデザインや柄を選べるドレスのオーダーサービスも始め、お客との距離を近づけるツールとして活用中だ。

「マッキントッシュフィロソフィー」伊勢丹新宿本店メンズ館店長 中村香里さん

クラス感と親しみやすさ

「人と人のつながりを大事にしたい」と中村さん

 入社から9年目の現在まで、ずっと「マッキントッシュフィロソフィー」メンズを担当する。伊勢丹新宿本店メンズ館も1年目から配属。中村香里さんは17年、18年度の2年連続で社内表彰制度「SANYOアワード」のリテール部門(1028売り場)でグランプリに選ばれている三陽商会のエースだ。「学生時代に駅ビル内で洋服を販売するアルバイトを経験した時から人と接する仕事がしたかった」と中村さん。「自分で着られないアイテムを販売する難しさがあるからこそ、やりがいも大きい」との思いから、あえて紳士服を希望した。

 伊勢丹メンズ館の場合、フロアが変わると客層も大きく変わる。当初の7階から6階に移設した際には、「主力客層の30~40代のビジネスマンに加え、メンズ館に憧れる20代のファッション好きが増えた」という。今春には7階の大きいサイズ売り場に併設した環境に変わった。移設ごとに新規客を開拓しながら、既存顧客にも継続して支持してもらう努力を欠かさない。百貨店のクラス感のある接客サービスを期待される客層と親しみやすさを求める客層、それぞれを見極めながらベストな対応で臨む。

 今年2月に正式に店長となり、スタッフとともに、お客が入りやすく雰囲気の良い売り場作りを心掛ける。そのためには「普段からのコミュニケーションが大切」と、みんなの声を聞き、熱意を持って仕事に取り組んでいる中村さん。「接客は本来パーソナルなものなので正解がない仕事。だから日々、刺激があり面白い」と強調する。「新人にも服を売る喜び、やりがいを伝えたい」ので、一緒に悩み成長しながら、手本になれる存在を目指す。

《バックルーム》

 「百貨店=顧客に強い」というイメージがあるが、実際に来店するお客は多様だ。頻繁に来店する近隣住民もいれば、ほかの用事のついでにふらっと立ち寄る人もいる。今回取材した店長さんたちは、一人ひとりのニーズに合った接客、距離感を使い分けられる〝引き出しの多さ〟が印象的だった。 一方で、どのお客に対してもベストを尽くし、納得や満足を得られる買い物を提供している。その日の売り上げはとれても、家に帰って鏡の前で「何か違うかも」と感じさせてしまえば、次の来店にはつながらない。「また買いたくなる」接客が、また1人、新しい顧客を増やしていく。

(繊研新聞19年8月26日付)



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事