長らく続いたコロナ禍が明け、消費はようやく上向いてきた。とはいえ、物価高によって消費に慎重な様子もうかがえる。必要な物とそうでない物の判断基準がより厳しくなっているはず。コスト上昇圧力が強いなか、価格訴求には限界がある。作り手、売り手としては、いかに商品価値を引き上げ、価格に見合う提案をできるかがポイントだ。その難易度は上がっているが、価値を決める大切な要素の一つである〝素材〟に改めて目を向けてみてほしい。有力な素材メーカーがそれぞれの繊維加工技術を駆使し、快適性や意匠性を追求した付加価値の高い素材を取り揃えている。
東レ「プライムフレックス」
- 軽量で快適な伸縮性
- 肌触り、風合いも好評
- 植物由来や再生原料も
東レはサイドバイサイド構造糸を使った快適ストレッチ素材「プライムフレックス」を押す。先行したポリエステルタイプに加え、最近はナイロンやハイマルチタイプが人気で、快適性と軽さや風合いの良さをアピールする。
プライムフレックスは潜在捲縮(けんしゅく)の糸と仮撚り加工を組み合わせ、生地を熱処理した後に糸が高捲縮となり高いストレッチ性を発現する。アスレチック、ヨガウェア、カジュアルセットアップなど多くの採用実績がある人気素材だ。
ストレッチで定番のスパンデックスと比べて軽量なのが好まれているうえ、サイドバイサイドで他社にないナイロンやハイマルチの認知度も高まっている。ナイロンの柔らかなタッチ、ハイマルチのち密でなめらかな肌触りなど風合いの良さが特徴で、ファッションとスポーツの垣根がなくなるなかで注目されている。
各タイプでバイオベースのポリマーを部分的に使っており、ポリエステルではリサイクルポリマーと組み合わせたタイプを開発済み。ナイロンでもリサイクルタイプを開発するなどサステイナブル(持続可能な)の切り口もさらに進化させる。
クラレトレーディング「エプシロン」
- 優れた耐熱性
- アイロン、捺染に対応
- フッ素系撥水材不用
クラレトレーディングはシンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂を使い、優れた速乾性とドライ感を持つ繊維「エプシロン」を開発。24年の本格稼働に向けて、準備を進めている。
SPS樹脂は出光興産が独自に開発したもの。クラレトレーディングが溶融紡糸技術を使い繊維化する。素材を変えることで、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリプロピレン(PP)を使った従来の「エプシロン」よりも機能性を高め、優れた耐熱性と撥水(はっすい)性を実現した。
これまでのエプシロンはPETとPPによる芯鞘(さや)構造で、熱に弱いことが課題となっていた。SPS樹脂を使ったエプシロンは熱に強いため、分散染料を使う高圧染色にも対応し、プリント染色やアイロンを用いたケアにも対応する。また、繊維自体に疎水性があるため、フッ素系撥水材を必要としない。
ランニング向けニットシャツなどのスポーツやアウトドア分野に加え、傘などの資材用品、カーペットなどのインテリア製品や寝具用途で提案する予定だ。他の糸との組み合わせや、膜によるコーティング加工などで付加機能を持つ素材の開発も検討している。
帝人フロンティア「ソロテックスリベルテ」
- 独自のスパン調質感
- 自然な膨らみ感
- 快適な伸縮性を両立
帝人フロンティアはポリトリメチレンテレフタレート(PTT)を使い、独自のスパン調質感と快適なストレッチ性を併せ持つ新感覚のスパン調機能性素材「ソロテックスリベルテ」を開発した。
PTTポリマーは熱セット性に乏しく低収縮化が困難だったが、新たにソロテックス単成分の低収縮化技術を開発し、ソロテックス単成分低収縮糸を作った。それを鞘(さや)糸に使い、芯糸にはコイル状でストレッチ性を持つソロテックスコンジュゲート糸を使用する。特殊異収縮混繊加工技術を使いランダムに混繊し、高密度編成技術を使い編み立てた。
同社はこれまでPTT繊維「ソロテックス」のシリーズを広げてきた。一方でPTTポリマーの熱収縮を制御することが困難なため、優れたストレッチ性と十分な膨らみ感の両立が実現できていなかった。
新開発のPTT低収縮化技術と同社が培ってきた特殊糸加工技術を組み合わせ、ストレッチ性と膨らみ感を付与した。
また、原料の一部に植物由来成分を使用しているため、環境にも配慮している。高級質感と快適性能、環境対応を実現した新規合繊衣料素材として、幅広い用途で国内外問わず拡販する計画だ。
ユニチカトレーディング「ジュフィーM」
- シルクのような質感
- 加工で多様な風合い
- レディスの採用広がる
ユニチカトレーディングの「ジュフィーM」は、シルクのような質感を持ちつつ、後加工を施したり高密度に織ったりして、麻などの風合いを出すことも出来る。汎用性が高く、レディスの春夏向けを中心に順調に広がっている。梳毛調の表現もできることから、10月に開く展示会では秋冬向けも打ち出し、更に展開を広げる計画だ。「ジュフィーM」には特殊断面ポリエステル「セシェ6」を使う。六葉型の断面を持つ繊維でポリマーの選定や紡糸時のポリマー流路の適正化、口金の最適化によって、アルカリ溶出なしで作り出せる。光の乱反射が起こるため、発色性が良く、マットでドライなタッチが特徴だ。
マテリアルリサイクルポリエステル100%の糸も開発し試験を進めている。海外ではサステイナブル(持続可能な)への対応を求められることが多いため、リサイクル素材への切り替えに取り組む。
今はレディスファッション用途が中心だが、ユニフォームやスポーツにもセシェ6の技術を生かした製品の開発も計画する。
この他、ポリエステルストレッチ素材「ゼットテンNR」とジアセテートの混繊糸使いの「スターフレックスNR」にも期待する。
日清紡テキスタイル「オイコス」
- ソフトかつ高強度
- グリーン車で30年採用
- 備蓄用や香るタイプ
日清紡テキスタイルのスパンレース不織布「オイコス」は、綿によるソフトな肌触りや、独自製法によるへたりにくさといった実用性の高さが特徴だ。ジェット水流のみで繊維を交絡させるスパンレース法(水流交絡法)で作られた日本製の不織布で、バインダー(接着剤)は不使用。綿など繊維の風合いを損なわない。オイコスを使ったおしぼり「めんです」は、東海道新幹線のグリーン車で長年採用されていることで知られ、来年で発売から30年が経つ。
コロナ禍で新幹線の乗車率が一時的に下がったことを機に、めんですの新しい商品開発や用途開拓に力を入れ、成果が出てきた。22年春にはめんですの大判サイズで、防災時に役立つ商品として開発した「5年保存コットンボディタオル」を発売した。目付け80グラムの最上級タイプで耐久性を備えるとともに、1枚で全身を拭くことができる280×560ミリサイズ。特殊な包装によって濡れた状態が5年間続く。育児介護、スポーツ、レジャー用途としても期待する。
同年6月にはヒノキの香りによるリラックス、リフレッシュ効果と抗菌性を備えた「ヒノキおしぼり」を発売。めんですにヒノキのエッセンシャルオイルを配合した商品で、抗菌作用とリラックス、リフレッシュ効果があるという。これまでゴルフ場やカーディーラーなどが接客用に採用した。
シキボウ「彩生」
- 中古衣料を再生
- 単純な廃棄減らしたい
- 音楽イベントと連携も
シキボウはアップサイクルの仕組み「彩生」(さいせい)が重点商材だ。彩生はシキボウグループで杢糸を主力とする新内外綿が、裁断くずや残糸、落ちわた、C反などを反毛機で開繊し、再び糸にする仕組み。単純な廃棄を減らそうとするアパレル企業からの関心が高く、この数年で引き合いが増えている。
顧客を通じて回収した中古衣料を反毛に活用するケースも少なくない。その一環で音楽イベントと連携し、イベント関係者や来場者から中古のTシャツを集め、それを原料に各イベントオリジナルのTシャツへ再生するという企画に協力している。
昨年には中四国最大級の野外ロックフェスと言われ、香川県の国営讃岐まんのう公園で開かれた「モンスターバッシュ」で来場者、イベントスタッフ、出演アーティストを対象にTシャツ回収プロジェクトを実施。Tシャツを原料にイベントオリジナルのTシャツを作るという。今年は8月19、20日に開催予定で、昨年同様に協力する。9月16、17日には、音楽イベントの企画・制作・運営などを手がけるプラムチャウダーとロックバンドのスピッツが主催する「ロックロックこんにちは!」(大阪城ホール)でもTシャツ回収に取り組む。
彩生を活用した産学連携の取り組みも始まる。東京の大学と、地域の中古衣料回収を通じて「環境負荷の低減に貢献したい」という。
KBツヅキの抗菌機能加工
- 洗濯耐久性200回
- 生乾き臭の発生防ぐ
- 綿の風合い損なわず
上質なタオル用の国産綿糸を主力とするKBツヅキ。細菌の増殖を防ぎ、機能の持続性がきわめて優れた抗菌機能加工を開発し、機能糸およびタオルなど製品の開発を推進している。
技術のベースは洗濯耐久性が高い抗菌消臭加工「TZスーパーデコム」。これに新たな抗菌剤を加え、固着技術も改良し、機能の持続性を向上。「家庭洗濯200回後も抗菌機能が持続していることを確認した」という。抗菌性を発揮する対象の細菌は、生乾き臭の原因菌とされるモラクセラ菌など複数の代表的な細菌に対応する。
新しい抗菌機能糸を活用したタオルは大きく3種類打ち出した。そのうち二つは伊勢丹新宿本店との協業品で、限定販売する。伊勢丹が企画した「サラダ」は野菜、フルーツをイメージさせる鮮やかな色が特徴のタオル。もう一つはKBツヅキが外部デザイナーの協力を得て企画した「ヘミング」。「実用性だけでなく、インテリア性も持たせたい」として、両端のヘムにオリジナルデザインの織物を縫い付けて仕上げた。
オリジナル商品としては「マモルネ」として訴求。抗菌性だけでなく、糸の撚りを甘くし、パイルの柔らかさも追求。通常は撚りが甘いと毛羽が落ちやすくなるが、上糸(パイル)と下糸の最適なバランスを探り、毛羽落ちを抑えた。
カワボウ繊維のトリアセテート
- 一格上の企画に対応
- 自家紡績で差別化糸
- 糸を備蓄し短納期
カワボウ繊維はメンズグループが得意としているトリアセテート使いの企画を強化している。トリアセテートはパルプを主原料とし、酢酸を化学的に結合させた繊維。シルクのような光沢と深みのある色が特徴だ。一格上の商品企画やサステイナブル(持続可能な)志向の広がりに対応する。自家紡績を持ち、糸の差別化が可能な強みを生かし、多様な糸使いによるテキスタイルを提案している。
新たに提案しているのが、経糸にウール50%、ポリエステル50%の混紡糸、緯糸にトリアセテート、ポリエステル複合精紡交撚の36番手単糸を配置したテキスタイル。
無地ライクのもののほかチェック柄なども加えて提案している。
ポリエステルも再生原料を使ったエコテキスタイルを企画。ウール混による質感の高さも訴えている。
自家紡績を軸とした糸の備蓄機能も訴求している。ウールとポリエステル混紡糸をリスクして短納期対応、精紡交撚糸やウール・ポリエステル混紡糸のバリエーションによる差別化企画の提供などを進めている。
同社は今年度から婦人とメンズの各グループをテキスタイルグループに一本化。素材や加工で共通したものを増やす総合提案を強めている。
“SEK”で知られる繊技協 繊維業界の健全な発展に貢献
清潔(S)、衛生(E)、快適(K)な機能加工繊維製品の証しとなるSEKマークを発行している繊維評価技術協議会(繊技協)。コロナ禍はSEKの抗ウイルス加工マークおよび抗菌防臭加工マークに対する関心が繊維業界で広がり、繊技協はマークの発行業務を通じて業界に大きく貢献した。
繊技協は社会動向によって変化する市場のニーズを捉え、繊維製品の評価技術の調査・研究、標準化、製品認証といった事業に取り組み繊維業界の健全な発展を下支えしている。
最近では22年度に繊維製品の抗ウイルス試験方法に関するJIS(日本産業規格)の改正に取り組み、JIS原案を作成して提出した。現行の試験方法に抗新型コロナウイルス性試験方法について盛り込んだもので、現在は審議中。「24年度のうちにはISO(国際標準化機構)の改正も目指したい」という。
新しいSEKマークの検討も始まった。昨年に発行されたISO4333の繊維製品上の花粉由来タンパク質等の測定方法を活用する「花粉由来・ダニ由来タンパク質等の低減化加工マーク」(仮称)の準備委員会が今春に立ち上がった。
SDGs(持続可能な開発目標)の潮流を背景に、「繊維産業における繊維製品の環境配慮設計に関する標準化調査」も担う。海外の環境規制動向、国内の取り組み状況などを調査しつつ、リサイクル、温室効果ガス抑制、省エネルギー、有害物質の排除といった観点で、環境配慮設計につながるガイドラインをまとめることが目的となる。
(繊研新聞本紙23年7月21日付)