変異株の感染拡大で再び暗雲立ち込める実店舗の営業だが、「そんな時でも顧客作りはできるはず」と話すのはルイ・ヴィトンジャパン(東京)でトップ販売員として活躍し、現在では企業研修や個人向けコンサルティングをしているクライアンテリングアドバイザリー(東京)代表の土井美和さん。客足は元のように戻らないが、「だからこそ、数少ないチャンスをものにして欲しい」。どんな状況でも、「一度の出会いで永久顧客を作ることはできる」と話しており、そのためには自分を印象付ける接客が不可欠と説く。まずは、つい口から出る常套(じょうとう)句をやめ、気の利いた言い換えで相手の懐に入るのがコツと話している。
(永松浩介)
押し売りではなく
コロナ下で、より顧客との関係作りが難しくなっているのは確かだ。「店頭でアプローチしていいのか、連絡をして来店を促していいのかちゅうちょする気持ちはわかる」。それでも、店に足を運ぶかどうかは客次第だから、「怖れずに『無理のない範囲でお会いしたいです』と私なら伝える」。マスク着用が常態だから、接客の際は目を見て話をし、表情を読み取る。
コロナ前から問題の本質は変わっていないとも。気になるのがつい口に出る当たり障りのないフレーズだ。「常套句はお客の心を動かさない。でも、少し言い換えるだけで相手に印象を残せるはず」。よろしければご試着できます、というのは良く聞くフレーズだが、「こちらは実際に着ていただいた方がシルエットの良さがわかるニットなので、ぜひ試着してみてください」と言い換え、試着のメリットを伝える。よろしければ、ではなくぜひ、と薦めるのが大切で、客を知り客のためを思った行動は押し売りではなく提案になる。
あるのは行動格差だけ
販売員の話を聞いていると、今でもマニュアル通りの接客が多いとか。無難なフレーズは無難な接客しか生まず、考える必要がなくなり成長しない。「こんなこと言っちゃいけないと思わず最初から踏み込んで話すのが大切」と土井さん。名前が分かった瞬間から名前で呼んで、自分が担当したい、自分が会いたい、と自分を主語に伝えるべきという。
失敗による反省でスキルはアップグレードできるもの。でもトライしないと接客の成否は永遠にわからない。「接客のハウツーなどの情報格差はもう無い。あるのは行動格差だけ」
長い販売経験からヒントは与えられるが、実践して自分なりにアレンジして欲しいと言う。「(客が)10人いたら10人違いますから。それが接客の面白さ」。洞察力はある程度は経験値に依存するが、「大事なのは相手にとって、どんな接客がいいのかを考えること」。これなら新人もベテランもできることだ。
購入の有無と関係なく楽しい時間を共有でき、客の連絡先を手にできたらすぐに連絡した方がいいと言う。「友人と楽しい時間を過ごせたら、別れた後にLINEなどで連絡しますよね。それと同じ」。名前も覚えてもらえるし、次回は指名をしてくれる可能性も高まる。土井さん自身もやってきたことだ。