実店舗が今、やるべきこと④ 偶然を生む場所に

2017/11/14 04:30 更新


《連載 ファッション小売りの未来 今、リアルでやるべきこと④》偶然を生む場所になる

 東京・新宿歌舞伎町。ラブホテルの入り口付近に、スナック風の大ぶりの電飾看板が置かれている。店名は「ザ・フォーアイド」。ホテル脇の細い路地の先にある、新進のデザイナーブランドと古着を売る個店だ。フォトグラファーの藤田佳祐さんが昨年9月にオープンした。

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 藤田さんはスナップやショーを撮影する仕事をしながら、ずっと自分で店を出す構想を持っていた。「パリはクリエイションにおいてトップクラスだけれど、日本はセレクトショップで上場するような企業が生まれる。編集力こそ日本の強みだと思っていて、自分で新しい店を作ってみたかった」と話す。

店をメディアに

 「これからの時代と対峙(たいじ)できる、メディア機能を持つ店」にしようという。公式サイトには店で売る服の写真が掲載されている。スタッフや客をモデルに、店を共同運営するスタイリストが着こなしやメイクを考え、藤田さんが撮影した写真は、服よりむしろ構図全体が醸し出す雰囲気が際立つ。

 写真の中の古い家屋や路地裏などの背景に服も、それを着た人物も一体となって溶け込んでいる。そこに服のスペックや価格の説明はない。写真は店が作る作品で、「使う衣装を仕入れている感じ。写真を見た人がそこに使われた衣装が欲しくなれば店に来れば買える」。

 サイト以外にインスタグラムでも店のスタッフが商品や店の様子を撮影して上げている。こちらも売り物の紹介というよりは、「モノと一緒に少しふざけたスタッフの様子や素の顔を撮って、店の空気が伝わるようにしている」。ネット上の発信がきっかけとなって店の存在を知った客が毎日訪れる。

あえて古臭いフォントで仕上げた電飾看板

他にはない刺激

 価格は古着が1万円以下の設定だがデザイナー物は1点数万円から数十万円まである。「ぬけ感」や「こなれ感」といった表現からは遠いデザインばかりだ。それでも「オープンから1年経つが、一つも商品が売れなかった日は一度もない」。

 「来るのは、他で買える服が面白くないと思っている人たち。写真を見てその服が欲しい、モデルをやりたい、撮影を手伝いたいとか、何かしら店とつながりを持ちたいという人だけが来る」。気軽に入れる立地にはないが、誰でも便利に行ける場所では見つけられない刺激を、服で得たい客がこの店を見つける。

 「偶然の出会いはリアルにしか生み出せない」。ネットで何もかも調べがつく時代には「情報は足りないくらいでいい」。確かめたい気持ちがわざわざ店に足を運ばせる。今後、写真以外に店そのものを使った表現で人を集めることも考えている。規模ではなく発信力の強さで「作り手が商品を置くこと自体がステータスと感じるような店にしたい」という。

歌舞伎町の裏路地の匂いを残す内装。店をコミュニティーとして情報発信に使う考えもある

(おわり)



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