ファッション販売は人間力☆

2016/12/12 06:00 更新


 ワクワク・ドキドキするファッション現場にこそ、客は吸い寄せられ、購買欲をくすぐられる。しかし、最近は消費者の洋服への関心が減退しているため、どこか挑戦も提案も遠慮がちで、真のファッション好きも逃してしまっている。今こそファッション需要を喚起する「チャレンジ精神」「熱意と強い提案」「客の喜びを引き出すコミュニケーション」「モチベーション維持」が求められている。新興のブランド、地方で売る専門店に「ファッション販売に求められる人間力」を聞く。

 

〈バロックジャパンリミテッドが16年春夏から販売するレディスブランド「リムアーク」のディレクター中村真里さんは、動画再生数を競う企画「スター発掘コンテスト」でグランプリを獲得し、自身のブランドを立ち上げた。美容師から転身してわずか2年、その行動力とチャレンジ精神が際立つ〉

 

バロックジャパンリミテッド
スライ事業部「リムアーク」中村真里ディレクター

チャレンジ魂と強い押し 尽くし、学び、リアル服になる

 

ファッション販売は人間力①


 長崎出身で、福岡で美容師として働いていました。サロンが雑誌スナップ撮影に協力していたため、私もファッションに興味が移って、どうしても東京の「ザ・シェルター・トーキョー」で働きたくなったんです。15年初めにシェルター博多店に入って、すぐ異動を希望、2カ月後にそれがかないました。

 その1カ月後にコンテストを聞いて「(チャンスが)舞い降りてきた!」と勢いで応募しました。1次面接は夢を熱く語って通過。本選の動画作りは後半3カ月はネタ探しで必死でした。山に登ったり、料理したりの動画をアップしましたが、ヘアとメイク動画が好評で、再生数もぐんと伸びて(現在11万超ページビュー)、グランプリが取れました。メイクは美容師だったので得意でしたし、女性の需要と供給がマッチしました。たくさんの友達やお客にSNS(交流サイト)で、視聴のお願いもしましたね。

 

 〈販売職からディレクターへ転身したが、重要なのは「お客と熱く接する気持ち」と「リアルな女性の声に応えること」を強く意識する〉

 自分のブランドを出せるなんて、1ミリも念頭になかったです。振り返ると、きっかけは「接客」が大きい。ザ・シェルター・トーキョーは客数が大変多く、接客して試着まで行けば、シルエットや腕・腰周りでこちらが思っている以上に要望が出ます。「女性らしいラインは無理」「脚が短く見える」などなど。

 そこで「一緒に洋服を探しましょ」と、お客に尽くすんです。「こういう着方が可愛いです」と、スタイリングもせっせと組んであげると、響かない方も中にはおられますが、たいてい心を開いていただけます。

 「自分だったら、どう着るか、どんなデザインがいいか」も毎日店で考えました。スタイリングはお客の想定を上回ると、価格に関係なく全て買っていただける。それ以降、お客が「私に接客されたい」になっちゃうんです。

 リムアークのテーマ「ノームモード」は、大人女性は外見よりも内面から出るカッコよさがほしい。なので、私はトレンドよりも「じかに聞いた声をくんでいく」ことを徹底して考えています。販売員を経験していなければ、シルエットもディテールもリアルではなかったかもしれない。リムアークには「ユーザー目線のリアルな共感」がベースにあるんです。

繊研 2016/08/08 日付 19527 号 1 面

〈静岡の専門店「ナーレンシフ」は、新進モード系デザイナーを販売する小さな個店ながら、先見性と提案力が評価され、新興デザイナーから注目の存在。大西祐介代表は24時間ファッション提案を考えられるのが専門店の強みという〉

 

ナーレンシフ(静岡)大西祐介代表 

24時間ファッションに浸る クリエイティブで利益だせれば

 

ファッション販売は人間力②

 

 立ち上げは08年、専門店の基本である「目利きと提案力」を基本にした、昔ながらのセレクトショップです。品揃えは「シセ」「アンダーカバー」「マメ」「ノワールケイニノミヤ」など。特にシセは数百万円規模で、単店にもかかわらず、とてもよく売れます。客はおしゃれが好きでたまらない方で、男性が30代、女性は20~40代です。

 支持を得ているのは、店頭やブログで伝えている「モードをカジュアルダウンして着る提案」が、顧客にはまっているため。扱うブランドはクリエイティブに富んでいて、才能があり、華と夢がある。ただし、モードを押しているので、ブランドが提案するスタイル通りでは正直お客が街で浮いてしまう。

 自分らはこれらをリアルクローズへと着崩し、街の時代感と空気になじませてあげるわけです。言い換えれば、「デザイナーのクリエイティビティーある新商品を、明日のあなたに、明日の街で着ること」で勝負しています。

 

 〈大西さんは靴製造卸・小売りの卑弥呼の地方店の店長を経て本部に異動し、独立後は工場に勤め、自店を構えた。今月で50歳。物作りから小売りの体験全てを活用し、運営は黒字だ〉

 正直、店舗運営は大変です。しかし、ファッションという範疇(はんちゅう)だけではなく、「クリエイティブなことをやって利益を生み出せている」ことが出来ていれば、私は格好いいと思っています。そのためには「先見性と提案力」を磨くこと。情報収集をまじめにやって、時代を読んで、街の流れを見て、デザイナーに自分が望むものや要望をしっかり伝える。緊張感があり、信頼関係も構築できていますね。

 年齢的に、もはや感性で勝負はできませんから、自分の引き出しを全部開けて、作り手、生産工場、小売りの経験をフル活用しています。先見性といっても、集めた情報から推測しているだけ。実は靴は分かりやすく、厚底が流行すれば、次はペタンコが来るんです。服も情報を得て、チャレンジすること。実は新ブランド仕入れの結果は2勝8敗。でも1勝すれば、8敗を誰も責めたりしないわけです。

 私たちは24時間ずっとファッションのこと、店のことを考えることができる。また、才能も資金もセンスもない中でやっている以上、差となるのは、人の違いになると確信しています。

繊研 2016/08/09 日付 19528 号 1 面

〈金沢のレディス専門店「マリア」は、元マルキュー系ブランドの販売マネジャーだった大場真理亜さんが、5年前に独立して起業した。今は片町の路面1店に絞って、接客と提案に力を注ぐ〉

 

マリアジャパングループ 大場真理亜社長

商品を売らずに心を売る 客とのかかわりが自分の成長

 

ファッション販売は人間力③

 

 「商品は売るものじゃない」ってことに、5年経って立ち返れましたね。オリジナル商品を2年企画し、最近まで「お客に何を販売するか?」「本当の物作りとは?」ってことを考えてきたんですが、大事なことが変わりました。

 市場にはいろんな服が様々な考えで作られていますが、なんだかんだ言っても「着てもらわないと喜びにつながらない」のです。そうなると、自分が何を作りたいかよりも、顧客のライフスタイルを察して、今ある服で絶妙なチャレンジを提案した方が、よっぽど楽しい。

 お客はブランドか、信頼か、変化のいずれかを求めて店に来ます。マリアへはスイート&クールなスタイルかつ変化を求めてやって来る。だったら、私たちスタッフも「旬の変化」をお客と楽しむことに転換し、自分のやるべきことが固まりました。

 

 〈店の目玉を「セットコレクション」とし、3点1万円で購入できるように提案。価格志向に応えつつも、コーディネートは絶対に客の希望を上回って、夢をかなえ、自信を与える〉

 商品は今、オリジナルはオーダードレスとスーツだけで、ほとんどが買い付けです。「いつ来ても違う店」だから、在庫を積まず、新商品を高速に回転しています。

 目指すは「ライフスタイルプロデューサー」。顧客のクローゼットを全部覚えて、求めていることが分かれば、それを上回るように「今の生活からの背伸び」を提案。それが顧客にはまるまで、時間をかけて探してあげています。

 お客の中には、自信が持てない人、夢がない人もいて、付き合っている男性が心の病気という人もいます。その立場になって、どれだけ親身になれるかを考えると、販売職には正直、かつ説得力のある人間性が求められる。お客だって感覚で販売員を見分けますから、「本気で分かってもらえない人に接客されたくない」になる。販売って、奥深い仕事です。

 客にとっても、自身で価格を決め手に選んだ服は、思い入れがなく、ストーリーもない。それを繰り返すと、やがておしゃれ自体が止まってしまう。

 人は、人とのかかわり方で、強くなっていくんです。それはお客も自分も同じ。まず自分の人生のストーリーを作って、上昇を止めない、止まらないことを見せていきたいと思います。

繊研 2016/08/10 日付 19529 号 1 面

〈業績を伸ばすトウキョウベース「ステュディオス」で、個人別の月間売上高の1位に多く輝く前原美紀店長。12日、リニューアルする渋谷・神南店の店長になる〉

 

トウキョウベース「ステュディオス」 前原美紀ストアマネジャー

アスリートのように自分を磨く 意識変えるための高い目標

 

ファッション販売は人間力④

 

 「アスリートみたい」ってよく言われます。「1位になる」「目標を達成したい」と常々言ってるからです。アパレル関連に勤めている人からは「会社も高成長していて、すごい」と。でも、それはアパレル業界から見ての話で、IT業界や流通業から見れば、スピードも規模もケタ違い。今は見比べる対象を変えて、目標を立てています。

 入社したのは昨年。それ以前は百貨店ブランドの販売員、スタイリスト、米国古着仕入れ会社のバイヤーを、それぞれ1~3年経験してきました。いずれの職でも「1番」を目標にしてきました。理由は、1番が言うことに説得力があるからです。

 といっても、マネジメントや会話がうまいわけではありません。正直と誠実しかないんです。なので「お客」のことだけは絶対に忘れない。「あの時、あの対応で良かったかな」「次に来店していただけるだろうか」と考えて眠れないこともあります。顧客には、ギャルっぽい人もいますし、学生、モード好き、派手好みの方まで幅広い。着こなすのに難易度が高くて、単価も高くて、売りにくい商品を、「あの方に似合う」と考えて「伝える」作業が好きなんです。これはスタイリスト体験も生きていますね。

 

 〈社内では「空気を読まないのが強み」と言われている〉

 「服を買いたい人を絶対逃さない」つもりなんです。私は本当に服好き、服バカなので、洋服が好きで店にふらっと入ってくる人に、「その商品、いいでしょ!」と声をかけずにいられない。お客だって、気になるアイテムを店で見つけたら、店員に声を掛けられたい。その時は「あら、分かったの?」って、顔になります。

 ぐるりと店を回って出ていくお客を追いかけて、「いいものありませんでしたか?」って聞くこともあります。店の外なので、お客から「あなた、根性あるね」なんてあきれられもしますが、逆に服好きなら、面白がられる方が多い。買い物をしたい人やいい服を知っている方は、こちらがタイミングを察して伝えることができれば、絶対に嫌がられません。

 スタッフには、1回無視されても、「今のタイミングで、もう1回行っておいで」とアドバイスします。客の行動パターンと声掛けのタイミングがつかめて、この感覚がわき上がってくると、売れるにつながるんです。それまでは経験と意識の毎日。意識を変えるために、「1番になれ」って、言い続けることがとても大事なんです。

(疋田優)=おわり

繊研 2016/08/12 日付 19530 号 1 面

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