【ファッションとサステイナビリティー】グリーンウォッシュ回避を カケンテストセンター・志賀聖氏に聞く

2022/12/02 05:30 更新


志賀氏

 欧州委員会は今春、循環型経済に関する政策パッケージの一環として、持続可能な循環型繊維製品戦略を発表した。日本では環境省が環境主張を行う事業者などに対して「環境表示ガイドライン」を策定し、その順守を求めている。海外市場に対応するうえで〝グリーンウォッシュ〟(※1)を避けることは不可欠となっている。カケンテストセンターの国際部グローバルテクニカルサポート室長で、ZDHC認定トレーニングプロバイダーの志賀聖氏に、国内外の現状と課題を聞いた。

LCAで検証する

 日本ではサプライチェーンにおける化学物質管理が、なされていないところがほとんどではないでしょうか。リサイクルを行うにしても化学物質を使用することになりますが、それを放置したままでリサイクル製品として訴求している現状があります。これは欧米をはじめとする世界市場では通用しません。

 欧州におけるサステイナビリティー(持続可能性)の概念は、ライフサイクルアセスメント(LCA、※2)全体で考えることが常識です。リサイクルすることによって、バージンの繊維よりもエネルギーの使用量が高くなることが本当に環境に良いのか考えなければなりません。トータルで環境負荷への影響を検証する必要があります。

 また、リサイクル材料を使用していることを訴求することは、事実であれば問題はありませんが、それによって「環境に良いです」と言い切ることはできません。化学物質管理やトータルのエネルギー使用量について、定量的な説明ができるかが問われます。

 欧州では「サステイナブル素材」という言葉は使いません。それは証明ができないからです。安易に使用すると、消費者をはじめとする社会的な批判を浴びることになり、各国の広告監督機関からの摘発対象にもなります。

 最近、特に監視の目が厳しくなっており、グリーンウォッシュの〝取り締まり合戦〟の様相になっています。

 欧州では、消費者が商品を購入する際に判断しやすいように、環境負荷を数値化して商品に表示することを求めています。この背景には欧州の経済戦略があります。サステイナビリティーの分野で経済的に世界をリードする狙いがあるのです。

リサイクルの定義

 日本におけるリサイクルの定義は、日本工業規格の「JISQ14021」に示されています。リサイクルは、大きく分けてポストコンシューマーと、プレコンシューマーに分けることができます。

 ポストコンシューマー材料は、消費者が製品を使用した後に回収されたものを指しており、この定義は理解しやすい。しかし、誤解を生みやすいのはプレコンシューマーです。JISQ14021では「製造工程における廃棄物の流れから取り出された材料。その発生と同一の工程で再使用できる加工不適合品、研磨不適合品、スクラップなどの再利用を除く」と定義されています。繊維産業の製造過程で発生した、残布や残糸をリサイクルとして訴求できるか。その解釈は諸説あってケースバイケースとなっており、製造を担う各社で判断しているのが現状です。

あいまいさを避ける

 環境省が13年に策定した「環境表示ガイドライン」では、環境主張を行う事業者などに対して、大きくは五つを基本項目として定めています。①あいまいな表現や環境主張は行わないこと②環境主張の内容に説明文を付けること③環境主張の検証に必要なデータ及び評価方法が提供可能であること④製品または工程における比較主張はLCA評価、数値などにより適切になされていること⑤評価及び検証のための情報にアクセスが可能であること--となっています。

環境省は「環境表示ガイドライン」策定の背景として、事業者と消費者のメリットを示す

 そして、「環境に安全」「環境にやさしい」「地球にやさしい」「無公害」「グリーン」「自然にやさしい」など、「あいまいな表現によって、環境への配慮を大まかにほのめかす主張をしてはならない」としています。このような漠然とした主張、あるいは美しい自然の映像やデザイン、シンボルマークなどを使用すると、消費者にあたかも環境に配慮したものであるかのような印象を与える可能性があり、従って、あいまいな表現や環境主張は行わないことが求められています。

ビジネスモデルの転換

 欧州委員会は今春、循環型経済に関する政策パッケージの一環として、持続可能な循環型繊維製品戦略を発表しました。そのなかで「ファストファッションは持続可能でなく、時代遅れだ」と指摘した上で、循環性原則に基づいたビジネスモデルへの転換を強く推奨しています。

 日本において、まずは環境表示ガイドラインに沿って製品表示のあり方などを見直すことから始めることが必要ではないでしょうか。特に海外市場に進出する企業にとっては不可欠になります。日本の製造業においても国際的な基準を順守する取り組みをしていないと、海外の相手先からオーダーが入らなくなってしまう。企業にとっては厳しいことかもしれませんが、避けては通ることのできないことだと考えます。

《ピックアップ用語解説》

※1 グリーンウォッシュ 環境やエコをイメージする「グリーン」と、粉飾・ごまかしという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語。実態が伴わないのに、製品やサービスが環境に配慮しているように見せかけること。同様に、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいるように見せながらも実態が伴わない取り組みのことを「SDGsウォッシュ」と呼ぶ。

※2 ライフサイクルアセスメント 製品やサービスの原料調達から生産・流通、廃棄・リサイクルに至るまでの一連の流れ(ライフサイクル)における環境負荷や環境影響を、定量的に評価するための手法。ISO(国際標準化機構)によってガイドラインが策定されている。

ファッションとサステイナビリティー トップへ

(繊研新聞本紙22年12月2日付)

関連キーワードサステイナブル



この記事に関連する記事