企業活動とSDGs(持続可能な開発目標)は切り離せなくなった。繊維・ファッション業界も事業を通じ、環境や社会、人権に関わる諸問題に対応しようとする動きが活発だ。社会的な企業価値も上がり、株主など投資家からの評価にもつながることから情報発信にも力が入る。一方〝グリーンウォッシュ〟という言葉があるように、環境や社会に貢献しているような〝見せかけ〟の活動に対する社会の目もますます厳しい。トレーサビリティー(履歴管理)が重視されるようになってきたのもそのため。企業は自分たちの正当性を示さなくてはならない。その一環で、合繊分野では昨今トレーサビリティーの仕組み作りが強化されている。
簡単な判別試験を開発
合繊の場合、バージンとリサイクルでポリマー自体に違いはなく、その違いを識別することはできない。このため、東レは同社のリサイクルポリエステル「&+」(アンドプラス)で、マーカーとなる添加剤を加えて識別できるようにすることでトレーサビリティーを確保している。
MNインターファッションは、ドイツ・ミュンスター大学発のベンチャー企業が持つトレーサビリティーと真贋(しんがん)判定の特許技術「タグル」を昨年11月から提供。合繊だけでなく、綿などのサプライチェーンにおけるトレーサビリティーの可視化に貢献したい考えだ。
ニッセンケン品質評価センターは、リサイクルポリエステル繊維を簡単な方法で判別する方法を開発し、その判別試験を今春にスタートした。第三者機関による分析機器を使ったリサイクルポリエステルの判別は新たな試みだ。
ニッセンケンは赤外分光光度計という機器を使い、テキスタイル試料を測定するというごく簡単な方法。とはいえ、赤外分光法でも同じポリマーならリサイクルかバージンかを判別することはできない。
そこでニッセンケンが着目したのは、赤外分光法で通常用いられる波形データではなく、スペクトル(波長ごとの分布)の数値。目視で見分ける波形データならリサイクルとバージンの違いはほぼ表れない一方、数値で捉えると波形ではわからない微妙な違いがわかると推測。その後、独自の特許技術を応用し、東京農工大学の指導のもと、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)という赤外光を照射する測定機器と、ケモメトリクスという解析方法を使った判別技術を開発した。
ニッセンケンによると、この技術でリサイクル素材として持ち込まれた海外品がバージンだと判明したケースもある。「トレーサビリティーをさかのぼるという煩雑な業務からの解放と、公正な取引の実現により、リサイクルポリエステル繊維の普及につながると確信している」という。専用の依頼書での申し込みが必要。今後は、リサイクルポリエステル樹脂やリサイクルナイロンなどの判別技術も開発を進める方針だ。
続々コンソーシアム設立
サプライチェーンが複雑なアパレルなど繊維製品のトレーサビリティーの透明性をより一層高める工夫も求められている。それを実現するのに期待されているのが、データの改ざんが不可能とされるブロックチェーン技術だ。
例えば、東レはアンドプラスでブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティーシステムの実証実験を進めている。そのほか、旭化成、三井化学、三菱ケミカルがそれぞれプラスチックリサイクルに関わるコンソーシアムを立ち上げ、リサイクル原料から最終製品までをつないだトレーサビリティーの仕組み作りに取り組んでいる。まずはサプライチェーンがシンプルな樹脂プラスチック製品用途だが、ゆくゆくは繊維関連の活用も視野に入れているようだ。
旭化成は資源循環プロジェクト「ブルー・プラスチックス」を推進。同社はリサイクルプラスチックを利用した製品のリサイクルチェーンや、回収後の使用済みプラスチックがどのような製品に再生されたかを消費者が知ることは困難なことに着目。ブルー・プラスチックスはブロックチェーン技術を活用し、リサイクルチェーンにおけるデータ改ざんを防ぎ、トレーサビリティーを担保する。
同プロジェクトの一環で今夏、ファミリーマート、伊藤忠商事、伊藤忠プラスチックスの間で、ファミリーマートの実店舗におけるトレーサビリティーシステムのプロトタイプを用いたペットボトルリサイクルの実証実験を行うことで合意し、9月から実施した。
三井化学は、日本IBM、野村総合研究所と昨夏から資源循環の推進に貢献するコンソーシアムの設立に向けて検討を重ね、9月末に「プラ・チェーン」を設立。トレーサビリティーを基盤としたプラスチックリサイクル材の利用促進、資源循環に関わるステークホルダー間の連携支援、資源循環の推進に向けた社会や制度のあるべき姿の検討を目的とする。
三菱ケミカルは昨年、大日本印刷、リファインバースグループと連携し、蘭サーキュライズのブロックチェーン情報管理システムを改修・活用して実証試験を行った。リサイクル製品を想定し、BtoB(企業間取引)向けプラットフォーム開発に生かす構えだ。
(繊研新聞本紙22年12月2日付)