「昔ながらの和裁の技術によるはんてんの魅力を伝えたい」。そう話すのは、茨城県つくば市ではんてん教室を主力に販売するスペースも構える和布工房・はんてん屋の木村美希代表。コロナ下に中断したが、自ら筑波山のふもとで綿花栽培も手掛け、原料から作り込む。1999年から25年、冬場はコンスタントに20~30人が教室ではんてん作りを学ぶ。
生徒は遠方からも
美希代表の母、木村寿子さんが和裁業をしていた母親からはんてん作りを習ったのがきっかけで教室を立ち上げた。「昔は家庭で作るのが当たり前だったはんてんだが、着たことがない世代が増え、良さを再発見した手縫いで仕立てる技術を残したい」との思いから、事業化を決断した。当初は母親の遺品で捨てるに捨てられないきものをはんてんにリフォームしたいという生徒が半分を占めた。東日本大震災後は服を大事に長く着たいという若い世代が関心を持ち始めた。
はんてん専門の教室は全国的にも珍しく、生徒も地元の住民が多かったが、今では関東近県はもちろん、九州から通う人もいる。コロナ下には、はんてんブームもあり、若者の中には、はんてん自体が新鮮に映るらしく、「仕事にしたい」という生徒も出てきたという。教室はつくば市の住宅街の古い学生向けアパート(4室)をリノベーションした建物内にある。もともと間借りしていた1室でこじんまりと運営していたが、8年ほど前にリノベーションして1階を教室と店舗、2階を住居にしている。外観は木造でレトロなイメージ。小さなスペースではんてんやちゃんちゃんこなどの既製品とセミオーダーを販売する。
地元で綿花栽培
素材作りにもこだわり、コロナ前まで10年間、地元の畑を借りて綿花栽培を続けてきた。収穫したわたは、はんてんの中わたとして使用。栽培には「わた部」というチームを作り、20人ほどが参加した。ピーク時にははんてん20着分(1着約300グラム)以上の中わたを収穫できた。天然素材を使った服を長く愛用することがSDGs(持続可能な開発目標)にもつながる。農村の高齢化も進んでおり、休耕地の活用による地域貢献も意識しているという。綿花栽培の仲間で藍を育て染めたり、古代織りにチャレンジしたりもした。
つくば以外でも要望があれば出張ワークショップやカルチャースクールで教えたりもする。今年から新たにマスターコースをスタートした。指導できる後継者も育てることで教室を増やすのが理想だが、「まずサークルやクラブ活動のように広がってくれればうれしい」(美希代表)と前向きだ。