アートに生きる男たちのロマン<その1>(宇佐美浩子)

2019/07/10 06:00 更新


ハリウッドきっての名優、ロバート・レッドフォード(以下レッドフォード)。

"彼の名を知らない人はいないはず!"と思っているのだが、ミレニアルズヤジェネレーションZあたりはいかがなものか?

ともあれ、レッドフォードが俳優として築き上げた60年近いキャリアに幕を下ろすというニュースが昨年8月、本国での最新作の発表と同時に公になり、ファンのみならず映画を愛する人々にとっては寂しさが募ったことと思う。


そこで待望の日本公開を機に、今月の「CINEMATIC JOURNEY」はサマースペシャルエディション2019として、「第7のアート(芸術)=映画」をキーワードに、前・中・後編の3部構成企画。

テーマは「アートに生きる男たちのロマン」。

そしてもちろん幕開けはレッドフォードの役者人生最終章『さらば愛しきアウトロー』の話題から!


彼が大切に思う仲間やスタイル、ファッションに及ぶまで、そこかしこに香る「らしさ」。

未来へ託す希望の光となる共演者やスタッフの顔ぶれ。

そして彼が最後に演じることを熱望した1980年代のアメリカに実在した伝説のアウトローこと、「脱獄歴16回、2年間で銀行強盗歴93件、フォレスト・タッカー、74歳」に集約されているのだろう。

本作の原題『THE OLD MAN AND THE GUN』の通り、銃は持参しているものの、それはアクセサリーのごとく身にまとい、誰一人傷つけることがなかったというタッカーをレッドフォードは次のように(本作資料より引用)⇓

〝生きるための掟について多くを学んだ〟

と語っている。そして…

〝金を手にするために銃を使ったけれど、弾を込めたことはなかったんだ〟

とも。

そんな人間味あふれる視点が、ロバート・レッドフォードという役者の存在意義だったのかなぁと一人勝手に納得してしまう筆者であった。

また「チーム・タッカー」を組む2人(下記)、ダニー・グローヴァ―(左)とトム・ウェイツ(右)。また温かなハートでベストパートナーを演じた女優、シシー・スペイセク(上記画像)も格別な味わい深さでスクリーンを彩っている。


そしてやはりレッドフォードの着こなしは、ヴィンテージワインの味わいにも似た独自のスタイルが確立されていて実にクールだ。

その最たる一例が、衣装デザイナーが探し求めたという光沢のあるブルーのスーツ。そのインパクトといったら、瞳のみならず、気持ちもトーンアップしてくれるはず。

また毎度凝視するエンドロールも、今回は「USA」感満載だ。

1865年創業のカウボーイハット、ウエスタンハットで有名なアメリカの老舗メーカー「STETSON」、その起源は1889年にさかのぼるとも言われる、アメリカを代表するジーンズのメーカー「Wrangler」、また1928年の創業当時はメンズシューズからスタートし、やがてウィメンズ、そしてキッズとライフスタイルブランドとして愛されている「COLE HAAN」。1887年、シカゴで創業したメンズウエアの老舗「HART SCHAFFNER MARX」、そして、今年日本上陸25周年を迎えたアメリカを代表するファッション通販ブランド「LANDS’ END」。

実はこちらもシカゴ生まれで、その始まりは1963年、ヨットマンでもあった創業者が開いた小さなヨット用品のショップだったとか。

Thanks! The American Gentleman, Robert Redford!!


『さらば愛しきアウトロー』

7月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

Photo by Eric Zachanowich. © 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved


「アートに生きる男たちのロマン」がテーマの「CINEMATIC JOURNEY」サマースペシャルエディション2019。

次なるヒーローは、1968年に短編映画を発表するなど映像作品とも縁が深い、現代のフランスを代表する作家、クリスチャン・ボルタンスキー。

クリスチャン・ボルタンスキー エスパス ルイ・ヴィトン東京にて 2019年 Photo credits: Louis Vuitton / Jeremie Souteyrat

現在、東京で2カ所、同時に個展が開催中という、実にレアなチャンスが巡ってきた。

日本における過去最大規模となる回顧展「クリスチャン・ボルタンスキー -Lifetime」(国立新美術館、~9月2日)と、エスパス ルイ・ヴィトン東京の「CHRISTIAN BOLTANSKI ANIMITAS II」。 (~11月17日)だ。

後者は2つの映像作品≪アニミタス(ささやきの森)≫(2016年、豊島、日本)と≪アニミタス(死せる母たち)≫(2017年秋、死海のほとり、イスラエル)が向き合い、草花の絨毯とセットで対を成すスタイルで上映されている。

何れも人里離れた広大な屋外に設置された300個の日本の風鈴が、日の出から日没までの流れゆく時間の経過の中で、自然と音色が重なりあい、あたかも風鈴による演奏会のようなシーンをワンカットで連続撮影している。

ちなみに「アニミタス」とは、チリの人々が死者の霊を祀るために路傍に置く、小さな祭壇を指す言葉だそうで、このインスタレーションシリーズの始まりは、まさにその語源の地の砂漠が舞台だったいう。

なおプレス向けに開催されたアートトークでは、ボルタンスキーの哲学的言葉の数々に、気づきを憶えた人も少なくないと思う。そして…

〝作品というのは、観る者が作品を完成させるのです〟

この言葉の向こうに潜む何かに、ハートを奪われた。

《アニミタス(ささやきの森)》、日本 2016年
展示風景、エスパスルイ・ヴィトン東京、2019年フルHDビデオ、カラー、音声 12時間52分21秒
Courtesy of the Fondation Louis Vuitton
Photo:Jeremie Souteyrat © Adagp, Paris 2019

「アートに生きる男たちのロマン」がテーマの「CINEMATIC JOURNEY」サマースペシャルエディション2019。

前編となる「その1」はこの辺りで☆この続きはまた来週!

<つづく>

宇佐美浩子の過去のレポートはこちらから

うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



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