現在公開中の映画『ある画家の数奇な運命』が、アートファンの間でも注目を集めている様子。
なぜなら、現代アートの巨匠として名高いゲルハルト・リヒターをモデルに描いた作品だから。
長編監督デビュー作『善き人のためのソナタ』で、世界各国の名だたる賞を受賞したフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督が情熱をかけ、脚本・製作を兼務して挑んだ本作。プレス資料にも記されていた、その驚くべきアクションは脱帽ものとしか言いようがない。
そもそもの発端は、人生の重要な瞬間にしばしば出会ったリヒターの作品、そして作家自身による著書や伝記にすっかり魅了された監督。その思いが映画化への夢とつながり、なんと直談判的行動ともいうべき、リヒター宛に「映画のアイデアをプレゼンしたい」という旨の簡易書留を送付。そして驚くべきはその二日後、作家本人から「自宅に寄ってくれ」というメールが届いたという、まさにサプライズの連続!
こうして、下記のようないくつかの取り決めと共に実現する運びとなったのだそう。
☑会話の記録は門外不出
☑事実は何かを明確にしない
☑人物の名は架空
☑絵画は映画用のオリジナル(リヒターの弟子で、長年のアシスタントでもあるアンドレアス・シェーン作)
などを踏まえ、徹底的にリサーチを重ね、189分という「長」編作品として完成したわけだ!
さてここでもう一つの楽しみがクラシカルモダンな衣装。
主人公クルトと同じ美術学校で服飾を学ぶ設定の、後に妻となるエリー役の衣装や、主人公のために作るスーツを手掛けた衣装デザインを担当したのは、『善き人のためのソナタ』でも監督との良きチームプレーを披露したガブリエル・ビンダー。
本作資料によると、川久保玲に敬意を表して「コム・デ・コスチューム」なる現代衣装コレクション店をベルリンで経営しているとのこと。またファッション感度の高で定評のあるアンジェリーナ・ジョリーが、自身の監督デビュー作の衣装デザインを彼女に懇願したとか。
ファッションへのこだわりもお見逃しなく!
TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中
©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG
というわけで、「カルチャーは『空』と『時』を超える」をテーマに旅する、今回の「CINEMATIC JOURNEY」。ここで少しばかりアートな寄り道を!
上記は、正真正銘のゲルハルト・リヒターの作品!
05年に氏の回顧展が開催されたという、偶然の縁もある「金沢21世紀美術館」にて、10月24日から11月23日まで開催の展覧会「The World : From The OKETA COLLECTION 世界は今:アートとつながる」で目にすることができるのです。
ちなみに「OKETA COLLECTION」とは、長年、ファッションビジネスに携わってきた桶田俊二・聖子夫妻による、個性的審美眼で選ばれた国内外の優れた現代アート・コレクションとして、昨今注目されており、そのきっかけとなったのは2010年に出会った草間彌生の作品だったとか。
以降、着々と新しい作品が加わり続けた当コレクション。初の美術館での本格的公開とあり、草間彌生、村上隆といった世界的トップアーティストから、ファッションとアートをまたいで活躍するKAWS やヴァ―ジル・アブローなど、グローバルでユニークな50点程の作品との出会いが待ち受ける。
それでは再び、「カルチャーは『空』と『時』を超える」をテーマに旅する「CINEMATIC JOURNEY」。次なる目的地は空?
『空に住む』というタイトルそのままに紡がれる、青山真治監督の7年ぶりの新作。
都心のラグジュアリー感香るタワーマンションの上層階に暮らすヒロイン(多部未華子)と愛猫。突然訪れた両親との死別により、叔父夫妻が暮らすマンション内に、投資用に所有する部屋を無償提供してくれたという流れだ。
そんな部屋の窓の外に広がる空の中で出会った、ビルボードのスター(岩田剛典)との偶然の出会い。また職場である郊外の小さな出版社で、密やかに繰り広げられる人間模様…
今を生きる人々の心の内をのぞき見するかのような心象風景が描かれる。
❝「ああ、みんなやってくれるな、よかったよかった」ってニコニコしながら見ているおじいさん、みたいな感じでいたので (笑)❞
と語る青山監督のインタビュー資料から、時戸森則のキャラクターについてのコメントが印象深い。
そこで、その一部を下記にご紹介したく。
❝「スターって何だろう? 自分が、相手の映る鏡みたいになっているところのある人だといいな」と考えました。岩田さんが決まって会ったときに「この人、鏡みたいな人だな」と思えたんですね。で、この感じで行こうと…❞
そんな岩田さんがまとう衣装も、スター俳優という役柄と本人の個性がマッチしたセレクションに、衣装担当者の技量を感じた。
「あの服はフェンディかな?」とか、「あのキャップは…」などと、宝物探しのように、あれこれチェックしつつ観賞するのもシネマの楽しみかも?
ここで参考までに、原作は作詞家の小竹正人の処女小説『空に住む』。
この主題歌として書いた楽曲「空に住む~Living in your sky~」(rhythm zone) を三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEが担当しているという図式なのだそう。
10月23日(金)全国ロードショー
配給:アスミック・エース
©2020 HIGH BROW CINEMA
「カルチャーは『空』と『時』を超える」をテーマに旅してきた今回の「CINEMATIC JOURNEY」。
ゴールは東京・渋谷の空の下。Bunkamura ザ・ミュージアムにて11月12日まで開催中の『東京好奇心 2020 渋谷』。
16の国と地域から選りすぐりの100人の写真家たちの強い“好奇心”あふれる眼差しで、東京という都市を見つめ、各々の写真作品を通して、鑑賞者の好奇心と共鳴する本展。
「今という時代に向き合って欲しい」という思いから生まれたプロジェクト『東京好奇心 2018-2020』も、パリ、ベルリンでの展覧会を経て、いよいよ本拠地、東京にておよそ200点の作品と共にフィナーレを飾る。この思いもよらぬ世界的状況を、誰が予測できただろう…
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中