唐突ですが、「ソウル」という言葉を目にすると、即座に音楽のジャンルにリンクしてしまいがちな私のような読者にとって、その道のクィーンと言えばアレサ・フランクリン。
2018年8月、生涯の幕を閉じてしまった彼女だが、1972年に収録した幻のコンサートフィルムがおよそ半世紀を経て、『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』として完成し、遂に日本でも今月末、スクリーンに初登場となる。
余談ながら、世界の文化的アイコンとも称された彼女のさまざまな肩書の中で、ミシガン州天然資源局から85年、「州の天然資源」に指定されたというエピソードを本作資料で目にした。まさしくソウルフルWOMANだ!
というわけで5月後半の「CINEMATIC JOURNEY」は、「魅惑のソウルフルWOMEN」をテーマに、そんな情熱あふれる女性たちとの出会いが待ち受ける新作をフィーチャー。
❝長年、医師を演じてみたいと思っていた❞(本作資料より引用)
と語るのは、現役医師による医療小説の映画化『いのちの停車場』(原作同名)のヒロイン、吉永小百合。
出演作120本以上というキャリアの中で初の医師役は、東京の救命救急医から一変し、故郷・金沢にて最期の時を迎えた人々の生き方を尊重する治療を行う、と同時にその家族の思いに寄り添う「まほろば診療所」の在宅医、かつ高齢の父と二人暮らしという設定。
そんな「吉永小百合の新しいヒロイン像」として、ドクター役を提案したのが、実は「北の三部作」(『北の零年』『北のカナリアたち』『北の桜守』いずれもヒロインは吉永)完成後、本作の製作総指揮を執った、東映グループ会長の岡田裕介だったという。
残念ながら本作の完成を見ずして、2020年11月、帰らぬ人となってしまったのだが…
さまざまな「いのち」と真摯に向き合うことの大切さを、臨場感たっぷりに演じるキャストの多彩な顔ぶれも本作の魅力の一つと言える。
とりわけ診療所の院長役・西田敏行、医大卒の運転手役(尊敬するヒロインを東京から追って来た)・松坂桃李、そして訪問看護師役の広瀬すず、彼ら4人が育むチームワークには涙腺が弱くなってしまう。
またどこかノスタルジックな「昭和」の温もり感が香り立つ、成島出監督の演出へのこだわりも注目すべきポイント。
ちなみに、ヒロインが正月にまとう母の形見の着物として誂えたのは、古都金沢が誇る加賀友禅の特注品とのこと。
ともあれ、医師として、娘として「いのちのしまい方」に愛を込めて挑み続けるヒロインは、「魅惑のソウルフルWOMAN」とたたえたい。
『いのちの停車場』
5月21日(金) 全国ロードショー
©2021「いのちの停車場」製作委員会
「魅惑のソウルフルWOMEN」をテーマに、気になる新作をフィーチャーしている今回の「CINEMATIC JOURNEY」。続いてのソウルフルWOMANは、「La vie en Rose」なヒロイン⁉
美しいバラの花がスクリーンいっぱいに広がるフレンチシネマ『ローズメイカー 奇跡のバラ』は、今、この時世だからこそ、より一層、視覚的アロマセラピー効果のような気分に浸れるのではないかと思う。かくいう私もその一人。
「フランスの国家功労勲章受章」という、押しも押されもせぬフレンチシネマ界を代表する女優、カトリーヌ・フロが演じるヒロイン、エヴは本作タイトルの通り、数々の受賞歴を誇るローズメイカー(バラ育種家)。
人生のすべてをバラの究極の美の追求に費やす姿勢は、妥協なきプロ中のプロ。
だが、父から受け継いだバラ園は倒産寸前となり、苦肉の策で職業訓練所から雇ったのは、バラとは無縁のワケあり男女3人。
彼らと共に挑む、世界最高峰のバラ・コンクールへの道のりはいかに?
ここで本作のダブル主演こと「バラ」にまつわるトリビア的話題をいくつか。(本作資料参照)
☑1930年創業「ドリュ」社、創業者の孫のジョルジュ&フランソワ・ドリュ
本作のバラ園の舞台として約10か月間も、当園の野原に無人カメラを設置して撮影協力、
かつまた主演のカトリーヌに、バラの交配と新種開発のキャリアを持つドリュ夫人が撮影前から本番にかけてバラ栽培の指導を担当してくれたそう。
冒頭の新品種コンクールでヒロインが出品する白いバラ「アンナプルナ」も当社が生みの親とのこと。
☑「ライオン」という役名(?)のバラの品種の代役は日本名「伊豆の踊子」
「パリ・バガテル公園」の姉妹園として2001年、伊豆半島東岸にオープンした「河津バガテル公園」に、本国よりささげられたフランス名「カルトドール」という品種。
ちなみに役名(?)「ライオン」が栽培されている温室の撮影場所は当品種の生みの親、また本作のバラの監修者の一人、アラン・メイアンが代表を務める1850年創業の名門ローズ・ナーセリー、メイアン・インターナショナル社。
などなど、バラ愛と情熱が詰まった「魅惑のソウルフルcinema」に乞うご期待!
5月28日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
THE ROSE MAKER © 2020 ESTRELLA PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINÉMA – AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINÉMA
「魅惑のソウルフルWOMEN」をテーマに、気になる新作をフィーチャーしている今回の「CINEMATIC JOURNEY」。ゴールは、現在公開中の『海辺の家族たち』。
前述のフレンチシネマ同様、国内外で受賞歴を誇るフランス映画界を代表する女優の一人、マリアンヌ・アスカリッド主演、夫であるロベール・ゲディギャンが監督・製作・脚本を手掛ける本作。
マルセイユ生まれの上記夫妻に加え、監督の幼馴染の俳優(主人公の兄役)という、これまた「ソウルフル」な地、マルセイユ近郊の海辺の入り江を舞台に、いま社会が向き合うべき事柄を家族の絆を軸に情感豊かに描かれた物語。
突発的父親の出来事により、20年ぶりにパリから帰郷する女優として活躍中の主人公。二人の兄と再会し、それぞれに直面する現状と取り組むべき今後の課題は、見る者の世代や状況により異なる思いを抱くはず。
その一方で、彼らが出会う3人の難民の子供たちへのまなざしは、おそらく多くの観客に重なりあう何かが芽生えるのではないかなぁと⁉
『海辺の家族たち』
キノシネマほか全国順次公開中
© AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016
配給:キノシネマ
提供:木下グループ
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中