SHE lovesシネマ(宇佐美浩子)

2021/09/27 06:00 更新


© Larry Horricks

この連載の幕開けから、しばしばフォーカスすることの多い「SHE」こと、女優や女性とシネマの熱く、密な関係性。

つい先日(9月18日~20日)、世界遺産・春日大社初という記念すべき「“祈”のレッドカーペット」と共に話題を集めたイベント『なら国際映画祭 for Youth 2021』も、その一つに加えたい。


次世代の才能を発掘するための3つのプログラム「ユース映画制作ワークショップ」「ユース映画審査員」「ユースシネマインターン」で構成された当映画祭。

そのエグゼクティブディレクターを務めるのは、奈良の平城遷都 1300 年目となった 2010 年より2年に1度開催されている「なら国際映画祭」同様、生まれ育った奈良を拠点に、世界に向けて表現活動を続ける映画作家の河瀨直美。


1997年の劇場映画デビュー作『萌の朱雀』で、カンヌ映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少受賞。その10年後には、同映画祭にて『殯の森』でグランプリ(審査員特別大賞)、また2年後には、同映画祭に貢献した監督に贈られる「黄金きんの馬車賞」。そして15年にはフランス芸術文化勲章「シュヴァリエ」を叙勲するなど、今や「世界の河瀬」としての顔を持つ彼女。

一方、ここ日本においても映画作家としての活動に加え、前述の映画祭や、先ごろ幕を閉じた「東京2020大会」の公式映画監督としての任務を遂行すべき、作品の完成を心待ちされるなど、多忙を極める日々を送りつつも、私生活では野菜やお米を作る一児の母なのだそう。

そんな彼女の凛としたたたずまいが印象的な、オンラインで参加した当映画祭のオープニングやクロージング。

「千年先の人たちにも届くような映画祭でありたい」と願う、彼女の胸の内に潜む熱きモノ。

それは…

❝映画は愛だね❞

の一言に集約されていると確信した。

そんな彼女のルーツである奄美諸島ゆかりの琉球舞踊女踊り「諸屯(しゅどぅん)」を、国内外で活躍する琉球舞踊家の宮城茂雄が、現世相とリンクするかのごとく「会いたい人に会えない切なさ」を情感たっぷりな奉納演舞として、前述のオープニングの晩、春日大社・林檎の庭にて披露。その様子を河瀬が自ら撮影し、Youtubeを通じて世界に配信した。

ご高覧のほど。


というわけで、9月後半の「CINEMATIC JOURNEY」は「SHE lovesシネマ」をテーマに数ある新作シネマの中から、1975年に発表された写真集「MINAMATA」の映画化という、チャレンジングかつユニークな企画でもある『MINAMATA―ミナマタ―』をフィーチャーしたく!

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© Larry Horricks

主人公の写真家ユージン・スミス役に加え、プロデューサーも兼務したジョニー・デップ。

彼の長年にわたる友人、のみならずビジネスパートナー(デップが設立した映画製作会社「インフィニタム・ニヒル」のCEO)、そして本作製作にも関わるサム・サルカールいわく、

「正確に再現ではないかもしれないが、間違いなくユージンの魂を表現している」(資料より)

と絶賛。

「ニューズウィーク」や「LIFE」のカメラマンとしての経験を積んだ後、世界的写真家集団「マグナム・フォト」に参加。また1961年9月から1年間に及ぶ、日立製作所のPR撮影のため日立市での滞在から始まる日本との縁。

そして再び、71年の写真展開催のための来日が彼と日本との距離をぐっと縮めることに…

© Larry Horricks

真田広之、加瀬亮、ビル・ナイほか国際派という表現がふさわしい俳優陣、そして音楽は坂本龍一というアーティストぞろいの本作。

そこにさらなる彩を加えるのが「彼女」たちの存在だ。チャリティー活動にも積極的な新世代のクラシカル・ディーヴァとして、グローバルに活躍するキャサリン・ジェンキンスが「LIFE」の副編集長役で登場。

またより「リアル」を追求するために徹底的リサーチを行ったという製作チーム。とりわけ衣装デザイナーのモミルカ・バイロヴィッチによる、本作資料を目にした際、そのきめ細かさに感動を覚えた。

セルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ドイツほか、国際的に評価の高い演劇作品や舞台、長編映画などの衣装デザインを手がけ、数多の衣装デザイン賞受賞歴を誇る彼女。セルビアとモンテネグロに再現された水俣の街で多くの撮影が行われたという本作では、漁師の服、警察官の制服、チッソの作業員の制服やヘルメット、デモ参加者が 身につけていたタスキなど、すべての衣装を一から作ったという。

中でもタスキに書く文字に関する裏話が印象深い。

「白い布に書く日本語の文字を、絶対に間違いたくなかったのです。日本語の教授に相談したところ、この50年の間にいくつかの文字が少し変化していることが分かり、日本女性を何人か見つけ、すべての文字を正しく書いてもらいました」(資料より)

また主人公役のメガネに関しても

「実際に着用していたものと同じビンテージ品ですが、舞台となった70年代に使用していたメガネがジョニーには似合わず、リアルに見えなかったため、60年代にかけていたメガネを使用しました」(同上)

思わず河瀬監督の名言「映画は愛だね」なのだと実感!

© Larry Horricks

MINAMATA―ミナマタ―

9月23日(木・祝)TOHOシネマズ 日比谷他全国公開

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うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



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