水辺、音楽、そして再生のものがたり(宇佐美浩子)

2015/02/25 14:45 更新


試写室へ足を運ぶことの多い私にとって、映画というのは登場人物たちのライフストーリーを通じて学ぶ、つかの間の個人授業ともいえる。

時にはスクリーンを彩る俳優たちのファッションであったり、また時には自身が直面している問題解決の糸口が潜んでいたり…と、思いもよらないアイデアが満ちあふれていたりするものだ。

たとえば、こんな出会いのチャンスも――


 

 
「スタイルは自信を生む」。

映画『君が生きた証』の主人公サム(ビリー・クラダップ)が一緒にバンドを組む、亡き息子と同世代の青年(アントン・イェルチン)にショップで服を選ぶ際に口にするひと言。

この言葉を耳にした瞬間、この言葉の奥行きの深さに「同感!」の意志表示をしたくなるのは、私以外にも多々おいででは?そしてまた一方で、このセリフの発言者サムの服装が、心模様とともにがらりと変わる様子からも納得するはず!

広告宣伝マンとして活躍していた時代のサムのライフスタイルは、いわゆる成功したエグゼクティブが好みそうなスタイリッシュなスーツに、モダンな一軒家、そして愛車はAudi。

ところが、愛する息子を突如失ってからの生活は「かつての面影はどこへやら?」な、別人状態へと変貌を遂げ、無精ひげに着古したデニムとシャツ。愛車は年季のはいっていそうな自転車。おまけに自宅は水上に浮かぶボートといった有様。

そんな彼に再び、新たな人生の旅が始動する。それは息子が遺した音楽と、一人の青年との出会い。

というわけで本作は音楽も必聴アイテム。なお主演の二人がプレーしているシーンはいずれも吹き替えなしのリアルだそう!


 
2月21日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開予定。
©2014 Rudderless Productions LLC. All Rights Reserved.


続いてお耳に入れたいシネマがこちら『くちびるに歌を』。

幅広い世代に愛されている楽曲「手紙~拝啓十五の君へ~」の作者、アンジェラ・アキのドキュメンタリーをベースに書き下ろされたという原作の映画化だ。

いつ耳にしても、深くて温かみのある詩の一語一語に胸キュンなmy favorite songの一つでもある。



 

長崎県、五島列島の周囲に広がる青い海を渡る船上に、スタイリッシュなスーツケースを携え帰郷するクールビューティーなヒロイン(新垣結衣)。そんな冒頭シーンがこれから始まる物語を示唆するかのような本作。さてその内容とは―

中学校の音楽教師の旧友が産休に入るため、代理教員を務めることになった彼女は、不本意ながら合唱部の顧問も併せて受け持つこととなる。目前に控えた全国コンクールの課題曲「手紙~拝啓十五の君へ~」、合唱部員それぞれの胸に秘めた切ない思い、そしてピアニストの顔を持つ彼女自身の心の傷跡。

バラバラになっていたパズルがやがて一つの画として表れるかのように、次第に一つの美しいハーモニーを奏でることとなる。

学生服の色彩とスタイルに調和するヒロインの清楚なコスチューム(紺×白)は、筆者を含めオトナになった観客に、あの頃のキモチを呼び覚ましてくれるかのよう。


 
2月28日より全国公開予定。
© 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 ©2011 中田永一/小学館


ところで、今回ご紹介した2作品の共通項といえば、水辺、音楽、そして再生の3つ。これら3点とリンクするような空間をふと思い起こした。「ハーバル&アロマテラピーサロン カオン」。

そこは水や自然の音が奏でる心の安らぎと、日本のハーブ農園で無農薬・有機栽培で丹精込めて育てられた四季折々のフレッシュハーブ、これらの相乗効果により一層リラクゼーション&リフレッシュ感をアップさせてくれる。



 設えへのこだわりも秀逸で、成城店内のシンボルともいうべき、インテリアのように天井から吊るされたオブジェ風アイテムは、静寂な空間に水の滴る音が心地よくメトロノームのように響き渡る。聞くところによれば、オリジナルBGMに使用されている自然音の一部は実際に屋外収録をしているそうで、生活リズムに合わせ3パターンに分類し、制作されているのだとか。

ちなみに朝用には鳥のさえずりなどで目覚めを、また昼用には日が昇るイメージや穏やかな時の経過、そして夕刻以降は1日の活動を終え、ゆったりモードへと移ろう演出になっている。

余談ながら、かつて世界の波の音を取材する旅の経験もあってか、波や水の音には筆舌し難い、ゆったりとした安堵感で人の心を包んでくれたように記憶している。

一方、音楽ならではの計り知れないエネルギーが持つ、さまざまな効果効能。そのサンプルの一つとして挙げられるのが日本でも昨年公開になった、認知症・アルツハイマー患者への音楽療法を描いた映画『パーソナル・ソング』だ。

おそらく各人各様のリフレッシュ&リセット法があると思うが、自然や音楽による人を再生するチカラの一端を、このほど映画やセラピストのコメントなどから再認識した。


 


うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



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