ここ数年、社会問題を強く意識する日本ブランドが目立っている。日本の産地の存続を念頭に置いた取り組み、徹底したサステイナブル(持続可能な)志向。そういった社会性とデザインの魅力が両輪となって、ブランドの存在感を高めている。
デザイナーの考えが如実に反映されるデザイナーブランドはもともと、問題意識が高く、反骨精神の強い存在だ。大御所から若手まで多くのデザイナーが、社会に対するそれぞれの考えを姿勢で示してきた。とくに日本では、良い物作りに欠かせない産地や作り手の継続を目指して、日本製にこだわるデザイナーが多い。そういった考えを行動で示してきた。
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■伝統産業の価値向上
その流れがここ数年、具体的な行動で示されるようになっている。寺西俊輔が手掛ける「アルルナータ」もそんなブランドの一つ。日本の伝統産業の価値を高めることを第一の目的に掲げている。
日本中に点在する紬産地の技術を継承するために、産地のブランド力を高める活動を行う。牛首紬をはじめ、大島紬、結城紬といった産地と組んでコレクションを手掛けている。独特な光沢や節を持つ紬は有名だが、きもの以外に使われることはまずない。それらを継承するために受注オーダーのブランドを始めた。
日本には伝統的な技術を保有する産地が各地にあるが、良いコレクションを作るための縁の下の力持ちといった印象が強く、それぞれの産地が主役になることは少ない。一方、欧州では素材そのものがブランドとして知られるメーカーがいくつもある。例えば「シャネル」のツイードジャケットといえば「リントン」、紡毛糸で織った英国調の毛織物といえば「ハリスツイード」など。こういったブランドは世界中で知名度が高く、ブランド価値になっている。
アルルナータは、日本にもそういったブランドを確立させようと力を注ぐ。あくまでも主役は素材。寺西が「エルメス」などで培った仕立ての技術が、素材の魅力を下支えしている。高額な反物なので、ラグジュアリーブランド並みの価格となるが、受注イベントの反響は高い。きもの好きの富裕層だけでなく、伝統産業に関心を抱く女性からも注目されている。これまでのデザイナーブランドとは違うアプローチで発信を強めている。
寺西は新たな取り組みとして、職人がそれぞれ作るものをブランド化し、ふるさと納税の返礼品として展開するブランド「ミゼン」も開始した。
■技がデザイン支える
奥出貴ノ洋が手掛けるバッグやスカーフのブランド「ラストフレーム」も、日本の産地が有する独自の技術を継承することがブランドの軸にある。日本の良いものを世界にという考え方が根底にある。
人気のニットバッグは、インターシャの格子模様やしっかりとしたリブ編みが特徴で、国内外で受注を増やしている。日本の有力セレクトショップだけでなく、英国のEC大手のマッチズファッション・ドット・コムでの販売をきっかけに、海外の卸先が全体の6割を超えた。
レジ袋状のニットバッグはシンプルだが、きっちりと仕立てる技術力は奈良のニッターならでは。日本に数台しかない特殊な編機で編んでいる。まねをする中国ブランドは後を絶たないが、比べて見れば一目瞭然。ラストフレームの商品は、格子模様のラインがシャープで、グラフィカルなデザインが成り立っている。「他にはまねできない」とデザイナーは断言する。技術力がデザインを支える。
■持続可能が支柱に
サステイナブルな取り組みに積極的な日本のデザイナーブランドも増えてきた。なかでも、高橋悠介が手掛ける「CFCL」の活動は一層、目立っている。二酸化炭素の排出量の計算や再生素材の使用率をシーズンごとに算出するなど、具体的な取り組みは群を抜いている。地球環境や基本的人権への責任が認証された素材の使用率の算出も行っている。
「地球にやさしいなどのあいまいな言葉だけでなく、具体的な数値を持って環境負荷に対しての影響を知ることが、現代生活のための衣服に必要なこと」という考えから、シーズンごとに取り組みをリポートにして、メディアと共有している。
もちろん、デザイン性が大きな魅力だ。ニットドレスが描く丸く立体的なフォルムは独特で高橋ならでは。デザイナーブランド特有の世界がファンを引き付ける。デザイン性と社会性を両輪とする活動が評価され、人気はうなぎのぼり。サステイナブルな意識がまだまだ低い日本において、新しい価値観を広める一翼を担っており、ファッション業界の様々な賞を受賞している。
山ほどある服の中で、必要なものは何か。作る意味のあるものとは何かを考え、製品化する。そういった考え方が、次の時代のファッションを作り出している。
青木規子=東京編集部コレクション担当
(繊研新聞本紙22年5月2日付)