革と真鍮で世界を回る職人の物語(宮沢香奈)

2016/02/05 17:56 更新




人の手によって生み出される”モノ”はその人の生き様や思想が表れると思っている。人生経験が豊富であればあるほど”モノ”も深みのある造形となっていくのだろうか。

ベルリン在住の友人から紹介してもらったのが、一○奏-ichiensoの正人(まさと)氏である。

彼は革小物と真鍮のアクセサリーを作っている職人でありデザイナーだ。日本とヨーロッパから仕入れた素材を使い、全て手作業で作られている作品は1点物であることはもちろん、アンティーク調なのに斬新なデザインと身に付けた時の存在感がとても良い。私も一目惚れした真鍮のリングを個人オーダーさせてもらった。



  


どこで技術を学んだのだろう?と思っていたら、ほぼ独学である。それ以上に、今に至るまでの経緯は想定外にユニークで未知でとても興味深いものだった。

19歳でバンクーバーへ語学留学。ストリートで出会ったパンクキッズの女の子が付けていたチェーンメールのブレスレットに興味を持ち、作り方を教えてもらう。

そこからチェーンメール、ビーズアクセ、ヘンプ編みなど、道具がなくても作れるアクセサリー制作を開始する。その後、シドニーへ移住し、自分の作品を売る方法を模索しながら、手探り状態でストリートでの販売を開始する。

 英語でのコミュニケーションには困らないし、外国人のシェアハウスで暮らしながら自分の商売をやりたいと思ったんですよね。その時はワーキングホリデーだったんですが、周りの日本人の友達はみんな日本食レストランとかでバイトしていて、僕には向いてないと思ったんです。だから、好きなスケボーとかやりながらストリートで自分の作品を売り始めたんです。当時はマーケット事情とかも全く知らなかったですし、それしか方法がなかったんですよ。でもそこで、初めて自分の作品が売れた時に完全に自分の力だけでお金を生み出したんだって実感出来たんですよ。もう何時間ストリートに座っていたかも分からないですが(笑)

 その後、ニンビンという小さな町の牧場の裏で暮らすヒッピーのミュージシャン男性と運命的な出会いをする。その男性はパイレックスガラスでアクセサリーを作っており、そこから地元のマーケットへの出店方法を学び、アーティストマーケットを中心に本格的なビジネスを開始する。

ワーホリを終えた後もインド・ゴアのナイトマーケットやトルコの皆既日食などへ出店するなど、世界各地を廻りながらマーケットに出店する活動を行ってきた。

その後、日本へ戻り、日本での市場を開拓した後、2015年にベルリンへ移住し、卸し先第一号店も見つかり順調なスタートを切る。現在はヨーロッパ全土を視野に入れた市場を開拓するため勢力的に活動中だ。

 


 

 

すでにベースがあるからベルリンではプロフェッショナル意識を高く持って、もっと極めていきたいですよね。以前に出店したロンドンはとても良い反響だったし、物が売れる街なので手を広げたいと思っています。あとは、クラフト専門のメッセや大きな合同展にも出展したいと思っています。ベルリンは、広いアトリエが持てるし、マイペースに作業が出来る環境が整ってますよね。クラブカルチャーも好きだし、刺激もあって、この街は自分に合っていると思っています。

 リアルな未来を思い描きながら、全てが順調そうに見える正人氏だが、それには世界各地での出会いと別れを繰り返した背景があるのだ。

 シドニー時代に一緒に住んでいた南アフリカ出身の親友がいたんですけど、僕の作品を本当に気に入ってくれて、ずっと販売の手助けもしてくれていたんです。その彼が国に帰った時に不運にも乗ってた車が襲われて、銃で撃たれて死んでしまったんです。そこからしばらくは自暴自棄になってしまって、ワーホリ後も残ろうと思っていたシドニーを去ることにしました。2007年にはニースにいたんですけど、そこで知り合った雑貨店を営む女性が当時僕が使っていた革のバッグをすごく気に入ってくれて、譲って欲しいと懇願されたんです。でも、5年ぐらい使っていて状態も良くないし、躊躇していたんですが、会う度に2、3個必ず作品を買ってくれて、そんなことしてくれる人に初めて出会ったし、もう譲るしかない!って気持ちになって、最終的に譲りました(笑)そうやって、いろんな国のいろんな人との出会いの中で、自分への自信もついたし、進む道も見えてきましたよね。

10代から海外へ行き、20代のうちに良いことも悪いこともここでは書けないようなことも数多く経験してきた彼のスピリットは、ここベルリンでこれからどんな風に広がっていくのかとても楽しみである。

   




 

一○奏-ichienso-  2001年カナダ、バンクーバーにて英語の語学学校に通いつつ趣味程度にアクセサリー作りを始め。2003年ワーキングホリデーにてオーストラリアに滞在。ジャンクマテリアルを元に本格的にオリジナル制作活動を開始。路上販売からスタートし、現地のマーケットに出展し始める。その後、タイ、インド、トルコ、ブルガリア、マケドニア、セルビア、クロアチア、ハンガリー、フランス、イタリア、ドイツ、イギリスを旅しながらアーティストマーケットにて作品を販売。2008年~2012年まで日本の市場を開拓し、現在はベルリンを拠点に日本とヨーロッパを中心に作品制作、販売活動を行っている。一点物、アンティークな風合いに特化した作風が特徴。オフィシャルHPはこちら。*オンラインショップから作品の購入が可能です。



宮沢香奈 セレクトショップのプレス、ブランドのディレクションなどの経験を経て、04年よりインディペンデントなPR事業をスタートさせる。 国内外のブランドプレスとクラブイベントや大型フェス、レーベルなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。 また、フリーライターとして、ファッションや音楽、アートなどカルチャーをメインとした執筆活動を行っている。 カルチャーwebマガジンQeticにて連載コラムを執筆するほか、取材や撮影時のインタビュアー、コーディネーターも担う。 近年では、ベルリンのローカル情報やアムステルダム最大級のダンスミュージックフェスADE2013の現地取材を行うなど、海外へと活動の場を広げている。12年に初めて行ったベルリンに運命的なものを感じ、14 年6月より移住。



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