日常を取り戻しつつあるベルリンのショッピング動向(宮沢香奈)

2020/05/27 06:00 更新


一時的にビアガーデンとして営業を再開した人気ローカルクラブ「Sisyphos」

5月に入っても肌寒かった日々が一転、毎日晴れて20℃前後の気持ち良い気候となったベルリン。オープンテラスは待ち構えていた人たちでどこも賑わいを見せ、晴れた日にオープンテラスでお茶やお酒を嗜むことが習慣のドイツ人にとって至福の日常が戻ってきたのだ。

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レストランより一足先に営業を再開したショッピングモールやショップも盛況の模様。マスク着用と混雑を防ぐために入場規制を行ってはいるものの、それほどストレスなく買い物が出来る。私も一部の店舗が営業再開した4月21日に友人と久しぶりのショッピングを楽しむことが出来た。やはり実店舗での買い物はオンラインショッピングでは味わえないリアルさと嬉しさがあり、ランジェリー売り場で大はしゃぎしてしまったほど。


ロックダウン直後からアパレルショップの多くはオンライン販売へと移行した。ミッテ区のショッピングエリアは治安が良いこともあるのか、通常のセキュリティー以外に防犯防止のための柵やシャッターを閉めるといった物々しさはなく、入り口のドアに”オンラインにて販売中”の張り紙がされているだけのところが多かったが、いつもならツーリストで賑わうエリアから人気がなくなるというのは何とも物哀しい光景だった。


反して、シャルロッテンブルク区に位置するベルリン随一の高級デパート「KaDeWe」は、ショーウィンドー全てのシャッターを閉じ、正面エントランスにはゴシックな柵が設置され、立ち入り禁止のテープで覆われた。解除後も全館を一斉に開けることはなく、食品フロアーと化粧品フロアーを先に開け、マスクを付けた屈強なセキュリティーが案内役を務めるという厳重さだった。



4月21日時点の「KaDeWe」の様子。ソーシャルディスタンスに関するルールが全てのショーウィンドーに記されている。

ロックダウン解除後にシャッターが開けられ、グッチやドリス・ヴァン・ノッテンなどのハイブランドによるカラフルなコーディネートで飾られたショーウィンドー。写真を撮る人の姿も見られた。

興味深かったのは、スニーカーショップに長蛇の列が出来ていたことである。中国ではエルメスやルイ・ヴィトンに、パリではグッチやバレンシアガに長蛇の列ができ、中国のエルメスの1日の売上が2億円を超えるという驚愕のニュースが舞い込んだが、ベルリンでその現象はまず起きることはない。ハイブランドの路面店が立ち並ぶ通称”クーダム”にはまだ行けていないが、普段でも客足が少なく、心配なほどなのにロックダウン解除後に混雑するとは到底思えない。

そんなベルリンの人々が最も必要としたのはスニーカーである。ロックダウン解除が始まったとはいえ、スポーツジムなどは未だに営業再開の許可が出ていない。自粛期間中に運動不足解消のためにジョギングやウォーキングを始めた人はかなり多いだろう。不揃いな石畳の多いベルリンの街では普段からスニーカーがメインシューズという人が多いため、ジョギング用のシューズを買いに来たかは定かではないが一番の列を成していたのだ。


他には、H&M、他店より遅れて営業を再開したTK Maxx、コペンハーゲンの雑貨チェーンFlying Tiger、低価格の衣類や雑貨を取り扱うWoolworth、夏季営業のみのアイスクリームショップなどに行列が出来ていたが、ロックダウン解除直後と今ではまた状況が変わっているだろう。


4月21日時点の「KaDeWe」前の花壇。まだ人の姿も疎ら。

また、多くの店舗で”コロナセール”と名付けてしまいたくなるほど季節外れのセールが行われており、TOP SHOPやC&Aは70%オフという大幅値下げを実施。1ヶ月以上に渡り、実店舗での営業が出来なかったことによって生じている在庫処分に必死なのだろう。ファストブランドでは、唯一ユニクロが大々的なセールを行っていなかった。アメリカを中心に、新型コロナウイルスによって倒産してしまったアパレル会社のニュースが次々と舞い込んでくるが、それ以前から経営が苦しかった背景が垣間見れる企業ばかりである。

営業を再開したからと言って、経営困難だった状態がいきなり改善することは難しい。ロックダウンが解除された喜びも束の間、収束に向かいながらポストコロナにおける生き方を考えなくてはならない段階になっている。それはアパレルに限ったことではなく、私たち一人一人に対して言えることなのだ。

それでも、ほとんどの店舗が営業している街は活気を取り戻し、初夏の陽気とともに人も活発になり、経済が動いていく様子が伺えたのは安心材料の一つとなった。そして、何より、実際に手で触れて買うものの尊さ、人に直接会って話したり、一緒に食事をすることの大切さを改めて実感し、これこそが何よりの免疫力アップになるのだと感じた。


久々に会った友人たちと。電車やバスなど公共交通機関でもマスクの着用が義務付けられている。

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長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。

セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。

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