世界中で高齢化が進行する中、先に日本では、神奈川県大和市が、60代を高齢者といわぬことを決めた。そしてドイツでは、68歳のファッションモデルが活躍し、話題を呼んでいる。シルバー・マッケット用商品のモデルではない。ジャンポール・ゴルティエ等のれっきとした有名ブランドのショーで、若いモデルと同等にキャットウォークをする。
「EVELINE HALL Ich steig aus und mach ‘ne eigene Show」(mit Bontrup, H & Gleinig, K)
彼女の名はEveline Hall (エヴェリーネ・ホール)。1945年生まれ。ベルリン、ハンブルクで子供時代を過ごし10代でハンブルク市立歌劇場のクラシックバレリーナとして活躍。その後、米ラスベガスでショーダンサー、再びヨーロッパに戻り長年ミュージカル等の舞台女優として活動する。その後フランス人のパートナーとフランスを拠点に生活をするが、90年代末プライベートな事情から母親が住むハンブルクへ戻る。
芸人という職業柄、また外国生活も長かったことから生活保障もなく、再び一からキャリアを積み上げねばならない状況に陥った。演技力を生かせるような仕事を探すが、なかなか上手くいかなかった。そんな中、試しに応募した、モデルの個性を重視するモデル事務所に着目される。テレビや雑誌用モデルの仕事が舞い込むようになった。2011年には、ベルリンファッションウィークでミヒャエル・ミヒャルスキーのショーに登場し、認知度を飛躍的に上げた。65歳だった。
若ぶる、ということをしない。グレーのヘアをユニークなセールスポイントとし、様々に造形させ、むしろ生かす。長い手足、細面、切れ長の目に加え、こけた頬、皺、薄い唇、といった特徴は、ふっくらした唇や頬を求める潮流に反し、能面の山姥をも彷彿させる。しかしだからこそ、元女優ならではの豊かな表情、ダンサーならではの鍛えられた身体としなやかな動きが際立つ。「私たち女性はある一定の年齢以上になると見えない存在になる恐れがある。50歳になったら他人に見えてもらえるよう演出が必要になる。若者に対抗できるものを見せねばならない」(エヴェリーネ・ホール。独Zeit紙のインタビューで)。
美さは、社会の価値観とともに変わる。ドイツでも、寿命は延び、年金支給年齢も引き上げられてきている。60代半ばでも現役で働かねばならない時代が直に到来する。若くなくなったらリタイアできた時代から、年を取っても若者に対抗できるような付加価値を提供していかなきゃいけない時代に移行している。エヴェリーネのモデルとして成功は、世の理想像の変遷を表しているように思える。
「EVELINE HALL Ich steig aus und mach ‘ne eigene Show」(mit Bontrup, H & Gleinig, K)
フランクフルト在住。身長152cm。大きなドイツ人の中にいると小人のように見えるらしい。小回りだけは利くジャーナリスト兼通訳。ファッションからヘルスケアまでをカバーする。