最新 通商事情③ 繊維業のFTA活用に変化の兆し

2019/11/11 06:26 更新


 日本の繊維業のFTA(自由貿易協定)利用率が高まっている。ジェトロ「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、日本企業が多く進出する同地域のFTA活用率は、11年に40.3%であったが、18年には48.3%となった。繊維業の活用率は65.2%と高く、業種別で食料品に次いで2位だ。

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 衣類生産について、海外で自社生産拠点設立や生産委託が行われるのは、中国が中心であるが、00年代に入り、中国の賃金上昇、各種規制の強化などを背景に、ベトナムをはじめとするASEAN(東南アジア諸国連合)やバングラデシュへ移管が進んでいる。日本の衣類(関税分類番号=HS61、62類)輸入額をみると、国・地域別シェアにおける中国の割合は10年前後の約8割をピークに減少し、同時期にASEANとバングラデシュのシェアが増加し、18年には3割超となった(=グラフ参照)。ベトナムからの輸入が特に増えており、日本の対ASEAN衣類輸入額の過半を占める。


 繊維業で活用事例が聞かれるのは、日本ASEAN包括(ほうかつ)的経済連携協定(AJCEP)、2カ国間FTAの他に、後発開発途上国(LDC)に対する特別特恵措置(LDC特恵)がある。同措置の対象には、バングラデシュ、カンボジア、ラオス、ミャンマーなどが含まれる。大まかにいえば、海外生産された衣類を日本に輸入する場合、LDC特恵は、当該国において「縫製」の1工程を経ることで、また、AJCEPやタイ、ベトナムなどとのFTAは、「製織・編立」、「縫製」の2工程を経ることで適用され、関税が無税となる。

 生地を中国から調達し、LDCで縫製して日本に輸入するケースに利用されるのはLDC特恵だ。日本にとって、繊維原料(HS50~60類)輸出、衣類(HS61、62類)輸入の相手国として台頭しているのがベトナムだ。日本製材料をベトナムへ輸出、現地で縫製することで日ベトナムEPA(FTA)やAJCEPを活用し、現地生産した衣類を無税で輸入するサプライチェーンを組むケースは少なくない。

 他方、バングラデシュ、ミャンマーなどは早ければ24年、LDC卒業の可能性がある。もしそうなれば、これらの国々で生産された衣類をLDC特恵により無税で輸入することができなくなる。ミャンマーなどで生産委託し、LDC特恵を活用する日系企業は、「衣類であれば、ASEANからの部材調達に切り替えることも考えうる」としているように、繊維業でAJCEPなどのFTA活用が後押しされ、サプライチェーンに変化が表れるだろう。

(小林恵介ジェトロアジア大洋州課/繊研新聞本紙19年5月20日付)



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