22年春夏コレクションの先頭を切って6月12~14日、ロンドン・ファッションウィーク(LFW)が開かれた。直前のキャンセルや秋冬の新映像、リゾートコレクション、アクセサリーを公開するブランドもあり、デジタルの公式スケジュール内で春夏コレクションは5ブランドが発表。サステイナブル(持続可能)な物作りを進める注目の若手がリードした。加えて、トニーアンドガイと組んだ新ブランド紹介プログラム「ディスカバリー・ラボ」の枠で14ブランドが映像を発表。フィジカルイベントは四つで、その一つ「ルーベン・セルビー」は150人の観客を招き22年春夏のショーを開いた。
(ロンドン=若月美奈通信員)
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ベザニー・ウイリアムスは今回も、19年から支援しているホームレスやその危機に直面した母子を支援するチャリティー団体、マグパイプロジェクトと組んだ新作映像を発表した。プリントやニットでモダンアートのような色鮮やかな柄を乗せたデザインはこれまでの延長。そこに、18世紀に子供のために初めてデザインされたというスケルトンスーツのディテールを引用したスーツが加わる。股の部分にボタンで取り付けられた四角い布地が印象的なそのデザインはどこまで現実的かという疑問はあるが、サステイナブル(持続可能)な物作りだけに終わらず新しいスタイルを追求する姿勢が伝わる。スケルトンスーツや新作のシルエットはビィクトリア&アルバート子供博物館の所蔵品から着想を得たもので、映像は改装のため休館中の同博物館で撮影された。コルセットトップにショートパンツをはいてローラースケートを楽しむ軽快な女性が印象的だが、コルセットの骨の部分は不要になった果物の梱包(こんぽう)資材を使っている。エルメネジルド・ゼニアのウール工場から譲り受けたデッドストックの布地、イタリアの手編み糸セシアの使用済みスワッチも取り入れている。子供服に続き、犬の服も登場。地球に優しい循環型ファッションにとどまらず、社会的マイノリティーを支援するアクティビストとしての強さを前面にアピールしながらも、ほのぼのとハッピーな世界が広がっている。
ライフ(フレデリック・エドモンドソン)は、昨年の6月の初参加から着々と完成度を上げている。ロックダウンが緩和されながらも封鎖が続く状況下、世界を旅する音楽ツアーへの憧れや10代に影響を受けた映画が出発点。タイトルになっているボブ・ディランの75年のツアー「ローリング・サンダー」や70年代を舞台にした米映画「ラスベガスをやっつけろ」などのカルト映画で、奇妙なものと美しいものが融合する世界を、色柄を混ぜ合わせながらもスッキリとしたカジュアルスタイルに落とし込んだ。軍用迷彩のアップサイクルジャケット、リサイクルポリエステルのトラックスーツなどのメンズとレディスで、シグネチャーの別布の立体ポケットで可愛らしさを加え、アニマルプリントで毒気を出す。後ろの裾にピンクのフリルを飾ったメンズのロゴTシャツもある。ブランド名の「LYPH」はLive Young Play Hardの略。創造性や好奇心を忘れない若々しいエネルギーを持ち続け、好きなことを仕事にして情熱を捧げるという理念。ブランドの歴史は浅いが、東京でのポール・スミスの「アール・ニューボールド」やビームスをはじめ、デザイナーとしての経験は長い。
カシミは太陽の光と自然に囲まれた白いモダン建築のバルコニーでのショー映像を公開した。ラップやアシンメトリー、フリンジ、バスケット織をちりばめたメンズおよびレディスの新作で目を引くのは、レーザーカットで切り紙細工のような加工を施したコーテッドコットンのトレンチやパーカ、スカート。レイヤードスタイルに軽さと動きを加えている。アラビア文字がプリントされたフーディーや中東の男性が着るフルレングスの民族服のようなアイテムなど、ブランドのオリジンもさりげなくアピール。そこに、インドに目を向けたピンクやパープル、オレンジの鮮やかな色調やネルーカラーが加わる。タイトルの「ビトゥイーン・アッシェズ・アンド・ローゼス」は、シリアの詩人アドニスが1967年の第3次中東戦争後に記した、人間の残酷さにもかかわらず自然は何らかの形で再生できるという詩の一節から引用した。そんなオプティミスティックな気分が流れるショーは、長袖シャツに五分袖のテーラードジャケットとワイドパンツを合わせた、白いオーバーサイズのメンズスタイルで締めくくる。
ルーベン・セルビーは東ロンドンの広い室内に150人の観客を招き、春夏のショーを披露した。「クラッシュ」と題した新作は、パッチワークやピースの組み合わせを多用し、部分的に組み込まれたプリーツ布やフリルをアクセントに、様々な異文化がぶつかり合うロンドンの街を投影したレディスおよびメンズウェア。24歳のセルビーは、クリエイティブエージェンシーやモデルエージェンシーを経営するZ世代の起業家で、女優メイジー・ウィリアムズのボーイフレンドとしても知られる。ロックダウン中にキングストン大学を卒業したばかりのハナ・シェリダンをヘッドデザイナーに自身の名前を冠したブランドを立ち上げた。昨年秋のパリ・コレクション中にはリッツホテルの庭でデビューショーを行った。結果的にデジタル主体となった今回のロンドンで、唯一のフィジカルショーを見せた意気込みとオーガナイズの良さはさすが。
ニッシュ・ダックスがデザインするラグジュアリーストリートカジュアル「DSKロンドン」は新プロジェクト、イネイトギア2021のパフォーマンスを行った。ダウンを挟み込んだ防水ポリエステルのウェアは、取り外すと斜め掛けできるバッグになるフード付きのプルオーバーとパンツ、パンツの両脇にポケットのようにスナップで付けられる二つのバッグがセットになったもので、様々な着こなしが可能。グレー1色、30セット限定で600ポンド。別売りのフェイスカバーが装着できる帽子とポーチもある。発表と同時にオンラインオーダーを開始した。ダックスはネパール出身、ロンドン育ちの25歳。