個店のオリジナルが世界へ
メード・イン・ジャパンブームが追い風となり、地方の工場発ブランドは増えている。ただし、高い技術を駆使して作り上げたからと言って、市場で支持されるわけではない。過去にも補助金を活用し、単発で消えたブランドも多い。モノがあふれる時代だからこそ、作り手と思いを共有するクリエーターやプロデューサーと組み、新たな価値を生み出し、消費者まで伝える力が不可欠だ。(大竹清臣)
神戸の地産地消型ライフスタイルショップ「じばさんエレ」(運営はワークトゥギャザーロックトゥギャザー、前川拓史社長)は事業に着手してから5年目の昨年から採算ベースに乗った。19日には「じばさん」と「乱痴気」を融合したメンズ版ショップも立ち上げる。前川が地元、メード・イン・兵庫にこだわり出したのは自然の流れだった。
地元の産地と新たな価値生む
今年9月で23周年を迎える主力のメンズセレクトショップ「乱痴気」は阪神淡路大震災後の街の復興と共に右肩上がりで成長してきた。東京にも出店、神戸にハイブランドを集めた大型店を出した。しかし、リーマンショック、東日本大震災、ファストファッションの台頭などで日本の消費は変化した。特に「ネットの進化によって今まで得意としてきた手法が通用しなくなった」と前川は振り返る。
信頼を築く
会社の売り上げが大幅に下がり、大型店も閉めた。いい時代を経験した中堅スタッフがごっそり抜け、街外れで一からの出直しとなった。仕入れて販売することに限界を感じ、自社で物作りを始めた時、前川は自分の足元にある財産に気付いた。兵庫には豊岡のかばん、姫路の革、西脇のシャツ地をはじめ、民芸品、工芸品まで衣食住にまつわる地場産業がある。それらと組み、自社ブランド「ロカリナ」を開発した。当初は、互いの感覚や業界常識の違いによる誤解や無理解からトラブルも多かった。
ウエアでは加古川の下着メーカー、ワシオと組み、特殊起毛の丸編み機で作ったカットソーアイテムがある。初年度の販売量はわずかだったが、現在では約3000枚となり、自店のほか、個店などへも卸している。元々の保温下着を別注で色やディテールを変え、春夏版も加え、ファッション販路で支持されてきた。ただ、工場と小売店では立場や考え方の違いから意見が衝突することもある。「怒られても現地に足しげく通い根気よく話し合うことで信頼関係は深まる」と前川の姿勢はぶれない。
前川の視線の先には海外市場がある。今後は地元愛に根差した兵庫県のコアな商品を世界へ発信していく。
国境はない
「地方からどこまでできるか挑戦したい」。広島県福山市でメンズセレクトショップ「ワンダーマウンテン」を運営するレック代表の大森雅之はオリジナル「イッテン」で今夏、ニューヨークの合同展に初めて出た。
イッテンは地元広島県の縫製技術を活用し、丈夫な素材で経年変化を楽しみながら長く着られるウエア。今回の出展では「素材から地元産にこだわった」。歴史と伝統のある備後絣をミリタリーの形に落とし込んだコートが代表的なアイテム。藍の絞り染めを経糸に、白を緯糸に旧式織機で織った備後絣にアレンジを加え、グラデーションをつけ、ランダムに途切れたストライプ柄を表現した。
反応は悪くなく、英国や米国のショップなど数社と交渉中だ。「自分たちが当たり前だと思っていた日本製の服が世界から評価されている」と大森は現地で実感した。洋服は第一印象が大事だが、関心を持った先には生産背景やブランドストーリーが気になるもの。日本人のDNAに染みついた繊細で丁寧な物作りと、欧米の文化に慣れ親しんだ感性、それらを自然にミックスする力は大きな武器になる。
SNS(交流サイト)に国境はない。自分たちの住むマイナーな街でも同じ地球の一地域であり、東京もニューヨークも関係がない。服も音楽と同じように中身次第で価値を共有できる人は必ずいるはず。今後は、ネットを通じて世界の濃い人たちと直接つながりたい。大森は海外展が良い経験になった半面、従来型の手法に疑問を感じた。自分たちらしく海外に伝えられる手段を模索する。(敬称略)
(繊研 2015/09/07 日付 19314 号 1 面)