身近なものから等身大で
地域社会が抱える問題解決のため、ファッションを入り口に自分たちができることから着手するローカルブランドの担い手が少しずつ増えてきた。
鹿から社会貢献
兵庫県の山間部では農作物を荒らす鹿が悩みの種。頭数調整のため処分される鹿の有効活用は全国的な大きな課題でもある。神戸でファッション専門店を運営するメリケンヘッドクォーターズは地元の鹿の皮はもちろん、角、肉までまるごと再利用する循環の仕組みを作り上げている。
「商売で人の役に立つのが理想。街の洋服屋がどこまでできるか挑戦したい」と入舩郁也社長は話す。オリジナルブランドでは鹿の皮を姫路の伝統的でエコロジーな技法、白なめしで加工する。8年前、鹿革を普及して永続的に供給するため、まずシャツのボタンやジーンズのパッチに使用した。鹿革を丸く型抜きする工程などは障害者が働く作業所に依頼する。角もアクセサリーとしてよみがえらせる。
「社会貢献しているからといって、服としての品質やデザイン性が低いのは許せない」ので、物作りをとことん突き詰める。白シャツの襟裏が汚れたらインディゴで染め直すサービス(有料)には、使い捨てにせず、長く愛用してもらいたいとの思いを込める。
鹿肉料理専門のレストランも経営している。入舩社長は4月に発足した「兵庫県日本鹿推進ネットワーク」の団体役員にも選ばれた。鹿革の商品開発を進め、白なめしした鹿革をライニングに、染色堅牢度4の基準を満たすインディゴレザーを職人が手で裁断、手縫いしたシューズやバッグを出す。イタリアの合同展にも出展する予定。「日本の物作りや文化を武器に海外へ攻め上がりたい」と入舩社長。一歩ずつ夢に近づく。
平和のメッセージ
「沖縄の負の遺産である米軍基地で使われていた装備品などを、身近な生活用品に変換することで平和へのメッセージを込めた」と話すのは、レキオの嘉数義成代表。米軍基地で使われたテントをリメークしたバッグ「メードインオキュパイドジャパン」を今春夏、沖縄で立ち上げた。放出されたテントは60~90年代に生産された耐久性の高い綿生地でできている。
傷や汚れなどで一枚一枚表情が違うテント生地をあえて生かし、一点物のバッグを作り上げる。1枚ずつ厚みや大きさが異なるため、薄い生地にはペンキを塗る。強度と防水性が増し、ハリも出るためだ。固く厚い生地の縫製には技術と労力を要する。
東京の合同展をきっかけに大手小売業との取引も決まった。卸し先との取り組みからビジネスバッグも開発中だ。沖縄の自店を見た海外のセレクトショップへも卸売りする。英国と台湾のセレクトショップが決まっている。「ブランドの性格上、海外市場の方が受け入れられる土壌がありそう」(嘉数代表)と期待を込める。(15/05/01 19231 号 1面)