紳士服の基本のことば‐1 背広・ジャケット編

2017/12/30 04:30 更新


 今回は紳士服の基本的な言葉を見ていきましょう。当たり前に使っている言葉も、歴史をたどると奥深いですよ。まずは背広・ジャケット編です。

1.背広

ジャケットとズボンを組み合わせた上下服で、ビジネスマンの制服のようになっている

 英語でbusiness suitやlounge suit。ジャケットとズボンを組み合わせた上下服で、ビジネスマンの制服のようになっているものをいう。狭義は、ジャケットのみを指す。上下セットの場合は、「背広服」「背広上下」ということがある。

 背広の原型が形成されたのは1820年ごろ。当時の代表的な紳士の上着は「フロックコート」(後述)などで、丈が長くウエストを絞った窮屈なスタイルだった。そこでロンドンの上流階級が保養地で過ごすための簡略化した衣服として丈の短いジャケットを作ったのが最初。

 当初は、胴を絞っていたが、寸胴スタイルに移り変わった。この袋のような形を形容して米国では、「サックコート」「サックスーツ」、後に「ビジネススーツ(事務服)」と呼ぶように。英国では「ラウンジコート(くつろぎ上着、散歩上着)」と呼んだ。「ラウンジスーツ」と呼ぶようになったのは、1860年ごろ、上着(コート)とズボンを共生地(同じ生地)で作るようになってから。

■背広⇒「共生地で作った上着とズボン」


2.ジャケット

ウエスト丈や腰丈までの前開き、袖付きの上着の総称

 英語でjacket。ウエスト丈や腰丈までの前開き、袖付きの上着を総称して言う。主として背広型が多いが、種類は無数で範囲も広い。ジャンパーやコート類まで含むこともある。

 その言葉は、聖書にも出てくる人名「ヤコブJacob」から。キリストの弟子の一人「大ヤコブ」を筆頭に、聖人の名として普及し、それにあやかろうとする人々の名に取り入れられ、フランス語で「ジャック」になった。人の名して、農民や庶民の間で浸透し、日常的に着る農作業服(ジャック)を戦闘服としてアレンジした衣服が「ジャケット」と呼ばれ、「短い上着」を意味するように。つまり原義は、「農民服、百姓服」で、粗末な上っ張りといった感じだ。

元々は農民の上着の意味として使われ始めた

 19世紀に入って、英国で「ラウンジコート」、米国で「サックコート」と呼ばれた現在の背広型上着が完成し、今日的な意味でのジャケットという語が定着する。以後、ジャケットは、背広型、ジャンパー型、スポーツウェア型(例えばサファリジャケット)などの各種上着の名称に使われる。

■ジャケット⇒「腰丈の各種上着」


3.フロックコート

言葉自体が使われ出した18世紀当時は単に「衣服」「外套(コート)」を意味し、19世紀中ごろから男性の昼間用礼装をいうように

 英語でfrockcoat。腰に切り返し、背中にカーブの絞りのある膝丈のダブルブレストの紳士コート。19世紀ごろまでは紳士の正礼装として着用されていた。

 その後、動きやすくするために、フロックコートの上着の前裾を腰から斜めに切り落とした(カッタウエー)コートが登場し、モーニングコートと呼ばれるようになった。

 フロックコートはモーニングよりも格上とされるが、現代では昼の正装はモーニングに取って代わられている。フロックコートの略装がモーニングであり、モーニングをさらに簡略化したのがディレクターズスーツである。

■フロックコート⇒「最上級の礼服」



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