地元に何十年も通っているうどん屋があるのだが、カレーうどん以外のものを食べたことがない。もちろん、ほかにもうどんはある。しかし、食べたことがないから、うまいか、まずいか分からない。暑い日は冷たいもの、寒い日は熱々のなべ焼きにしようと、出がけには思っていても、気がつけばカレーうどんを食べている。人は選択を迫られた時、保守的になるようだ。経験したことのないものは選びにくい。
服装も同様で、何を買おうかと迷うと、多くの人は、いつも着ているのと同じテイストのものを選びがち。似合うかどうか悩まなくてすむし、組み合わせも簡単。安心して着ていられる居心地の良さがある。
経験を積んだ販売員は、お客の好みを踏まえた上で、意外な1着を薦めることがある。ふだん買っているのとは異色の服。自分の手持ちにはもちろんない。背中を押され試着をしてみると、着慣れない服が新鮮に映る。巣穴から出て外の世界に踏み出した感覚。〝自分の世界が広がった〟と、お客に感謝される。
気象庁が発表した3カ月予報によると、いつもより暑い夏がやってくる。それでもいつもの店で、汗だくになりながらカレーうどんを食べることになりそうだ。「今日は暑いからコロ(冷やし)がうまいよ」とでも店主が声をかけてくれれば、新しいうどんの世界が広がるのだが。