《めてみみ》一生物との出会い

2021/01/22 06:24 更新


 かつて、店で接客を受けた時に「この服は一生物ですよ」と言われることがあった。若いころはそんな言葉に踊らされ、購入することもあったのだが、しばらくして「服に一生物なんてない」というのが持論となった。

 なぜなら、一生物と呼べる定番性の高い服でも、着ていくうちに必ずコンディションは悪くなる。宝飾品のように、時代とともに価値が上がるものはほとんどない。そして、時代とともに定番も少しずつ変化していく。

 ところがである。何回か引っ越しを繰り返し、そのつど、服の整理をしていく中で、どうしても捨てられず、今も現役で着続けるものがあることに気づいた。25年前に買ったダブルフェイスジャケット、15年前にオーダーで作ったカシミヤセーター、20年前に買ったバイカージャケット。いずれも今も現役で、このままだと一生物になってしまう。

 本当に気に入ったものは修繕しながら使い続ける。15年前のカシミヤセーターも首や手首の糸が何度かほつれてきたため、そのたびに直してもらいながら使っている。「一生物」というのはセールスのための言葉ではなく、購入した人の物への愛着が作り出す。そんな風に思えるようになった。コロナ禍で消費の仕方が変わると言われている。一生、愛着を持って着続けたいと思えるような服が求められるように思う。



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