DtoC(メーカー直販)の掛け声と共に、下請け中心だった産地の中小企業メーカーも自社ブランドやネット販売を強化し始めた。低価格化の流れや受注先の販売不振にコロナ禍が重なり、自ら進まざるを得ないから、動きは加速する一方だ。急ぎ作ったマスクの好評に驚いた企業も多い。
あるメーカーは、長年取引していた大手受注先からの生産が激減し、懸命に自社ブランドの確立を急ぐ。展示会への出展や、ブランド認知度向上の広報宣伝などを進める予定だったが、思うように進まず、黒字化のめども遅れている。
「本当に厳しいですよ」と言いながらも、その顔色は意外に明るい。「やはり、エンドユーザーの顔が見え始めたこと。過去は消費者からかかってくる連絡と言えばクレームばかりだったから」と苦笑い。「一番の収穫は、社内の雰囲気が大きく変わってきたこと」という。
自社ブランドを立ち上げる苦労を知るにつれ、ほかにも大きな変化もあった。「ロットが合わない」「もうからない」と断ってきた小さなクリエイターやOEM(相手先ブランドによる生産)先の声を、前向きに受け止めるようになったのだ。仕入れ先への応対も「買い手意識でなく対等なパートナーとして接するようになった」。目先の売上高や黒字化も大事だが、社風が変わる意義はさらに大きい。