《めてみみ》風をつかまえた少年

2021/03/29 06:24 更新


 自分が食べる野菜の一部でも栽培しようと、猫の額を耕した。新型コロナウイルスの影響で思いがけない生活の変化が我が身にも起きた。しかしシシトウの種からは芽も出ず、残された望みはジャガイモ。農家なら立ちどころに生計が危ぶまれ、開拓農民なら飢えに直面だ。

 19年に映画化された「風をつかまえた少年」は、自作の風力発電装置で地下水をくみ上げることに成功し、干ばつを繰り返したアフリカ・マラウイの土地を潤した実話だ。日照りが続き硬くなった畑を耕す父親は、風力発電の研究にのめり込む少年を学びから切り離し、畑で働かせようとする。入学する時に真っさらなシャツやネクタイ、パンツを買い与え、通学する少年を誇らしげに見送った姿はなかった。

 生命の危機に直面すれば、学ぶことも、きれいな服で生活することすらも顧みられなくなってしまう。乾いた土にがむしゃらに農具をたたき込み、子供につらく当たってしまうのは、コロナ禍で厳しい労働から離れられない今の日本や世界の大人たちの姿と重なる。

 卒業、入学の季節を迎えた。無策で無様な父親や母親だけれども、子供のために懸命な思いで働き続けているのは分かってもらえないだろうか。豊かな土壌があれば、作物も再び育つ。子供や若い世代の幹をへし折ってしまうことだけは厳に戒めたい。



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