ワコールの成長要因の一つは京都で起業したこと。古都の伝統や文化が強みになったのはもちろんだが、「戦災に遭わなかったことも大きい」と聞いた。日本各地が空襲を受けるなかで、京都には全国から多くの人々が疎開し、特に優秀な女性が集まったという。
渡辺あさ野さんもその1人。草創期の同社の工場は生産性の低さに悩んでいた。そこに軍服工場で近代的な縫製システムを経験していた渡辺さんが入り、生産現場を一気に変えた。芯の強い人だったようで、創業者の塚本幸一氏にも「こんな方法やったら、もうかりませんよ」と直言し、塚本氏も「偉そうに言うならお前がやれ」と応じたと社史は伝えている。
今年、ワコールは創立以来、初の赤字を見込む。コロナ禍の影響は言うまでもないが、それ以前からの国内ワコール事業の伸び悩みも構造的な要因だ。かつてない危機感のなか、今は収益構造の改革、デジタルトランスフォーメーションの加速、組織や体制の整備など、様々な改革に取り組んでいる。
バリューチェーンの強み、豊富な人材や財務力などを考えれば、余程のことがない限り赤字は1年で終わるだろう。ただ、もう1段、2段の成長を遂げるには、数字に見えにくい改革も必要。経営トップに対しても、歯に衣を着せず直言できる人を増やすことも宿題の一つだ。