政府は東京電力福島第一原発の処理水を2年後をめどに海洋放出する方針を決めた。処理済み汚染水を、ほとんどの放射性物質を取り除ける多核種除去設備などで再び処理した上で、全ての放射性物質の濃度が法定基準よりも低くなるよう海水で薄め、海に放出する。
有害物質が除去されるとはいえ、原発に利用された水が海に流されることに対して、抵抗感を持つ人は多い。しかし、原発の処理水の海洋放出は欧米では既に実施されており、政府や多くの専門家も「今回決めた手法の安全性は十分」という。にもかからず、漁業関係者を中心に地元の反対が依然強いのは「福島の海で採れた魚は危険」などの「風評被害」が懸念されるからだ。
11年3月の原発事故発生後も科学的根拠がない風評が広がり、地元に大きな打撃を与えた。農水産物だけでなく、福島で生産された衣料品にまで風評が一部で飛び交った。こうした事態を再び招かないためにも、政府は処理水の安全性を科学的根拠に基づいて示し、説明を尽くさなければならない。
仮に再び風評被害が広がれば、漁業だけでなく、地元の人々の生活と経済全体に打撃を与えかねず、地元の消費、繊維分野の産地企業の生産にも悪影響を及ぼす。今回の原発処理水をめぐる問題は、ファッションビジネス業界にとっても無縁ではない。