《めてみみ》禅と日本人

2021/06/02 06:24 更新


 「機会があれば、ぜひ行ってみてください」と、あるアパレル企業の社長に勧められたのが神勝寺という寺院。広島県のJR福山駅の南西、名勝地である鞆の浦にも近い。「禅と庭のミュージアム」をテーマに、茶室や禅庭が広大な敷地に散らばり、書画の展示、座禅や写経など禅に関する様々な体験ができる場だ。

 庭内で一際目立つ建物が洸庭(こうてい)。こけら葺(ぶ)きを応用し、木材で包んだ舟形の巨大な建物が石庭に浮かんだような構造物だ。アーティストの名和晃平氏が参画するクリエイティブチーム、SANDWICHの設計で、内部では暗闇の中で波に反射する光を表現したインスタレーションも体験できる。

 当方、禅に関する知識は乏しいが、それでも暗闇にいる間、日常を忘れ穏やかな心になったような気がしてくる。禅が目指すものの一つに「一つの相にこだわらない無相。一処にとどまらない無住。一つの思いにかたよらない無念の心境」があると聞く。

 この先、業界を待ち受ける環境の変化は予想がつかない。まさに思い込みに捉われず、柔軟な経営を進めることが重要なキーワードに浮かび上がる。禅も仏教の一つであり、仏の道を説くことがもちろん本義。ただ、こうした処世上の教えが数多く含まれているからこそ、長く日本人の心に根付いてきたに違いない。



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