自宅にヨーロッパ出身の若者が滞在したことがある。男女それぞれ来た時期も異なるが、共に訪日は初めてだった。〝おもてなし精神〟を発揮して、京都や奈良の神社仏閣など近くを案内した。一巡後、1人で少し足を伸ばしたいというので、希望を聞いてみた。
共通して挙がった場所が「熊野古道」。古くから神々が住む地として信仰を集めた。平安・鎌倉時代には貴族から一般庶民に至るまで「蟻(あり)の熊野詣」と言われるほど行列が続いたらしい。世界遺産になった今でこそ道の整備なども進んだが、それでも交通は不便。昔は命を落とす人も結構いたらしく、あちこちに供養塔が残る。
1人で行くのは少し大変と、忠告するのだが、彼らにとっては絶対に行くべき場所なのだという。聞けば、スペインを横断する「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」を既に踏破している。キリストの使徒の1人である聖ヤコブの墓所を目指す長い巡礼路であり、これに匹敵するのが熊野古道らしい。
コロナ禍が終わり、いずれインバウンド(訪日外国人)も戻ってくる。ただ、世界中がこれだけの惨禍を受けた後である。物的欲求から、よりスピリチュアルな旅へと価値観が大きく変わるのかも知れない。インバウンド需要の面でも、どんな変化が起こるのか、今から抜かりなく準備をしておきたい。