ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』は、20世紀半ばに書かれたSF小説。主人公の発明家が友人の裏切りで自ら興した会社を追われる。復讐を試みるも返り討ちに遭って意識を失い、そのまま30年間の冷凍睡眠に入れられてしまう。
目覚めた未来で主人公はタイムマシンの存在を知り、それを使って30年前に戻る。過去に起こったことを修正するために奔走し、望む通りの未来になる段取りが整うと、30年後の未来に向け再び冷凍睡眠に入る、というあらすじだ。
タイトルは、主人公の飼い猫が冬になると、扉のどれかが明るく楽しい夏へと通じていると信じて、家中の扉を開けてくれとせがむことから来ている。寒さの苦手な猫が夏への扉を探し求める様子が、未来を切り開くために過去へ戻ろうとする主人公に重ねられている。
SFの未来は、現実のテクノロジーの発達にいずれ追い抜かれる。だから時間の経過とともに読まれなくなることも多い。だが、この作品はその限りではない。
小説は日本での初出から60年以上経っても読み継がれ、山下達郎の楽曲のモチーフになり、ドラマや舞台になったこともある。今年は日本版の実写映画が制作され、公開された。ひどい過去をやり直し、新しい未来を作る。現実にはあり得ない逆転劇を味わいたい人がまた増えているのかもしれない。