「この沼は楽しいぞって話すんです」。あるセレクトショップのメンズ部門でスーツなどドレス系の服の売り場の担当が教えてくれた。その店はカジュアル服も扱っており、新人の多くはカジュアルの売り場を志望する。
全員が希望通りになるわけもなく、毎年何人かがドレス売り場の配属になる。スーツスタイルに興味がなく落ち込んでいる新人に、店長や先輩たちは冒頭の言葉をかける。
メンズのドレススタイルにはジャケット、パンツ、シャツにネクタイなどコーディネートを構成するアイテムそれぞれに形や色、柄、素材のバリエーションがたくさんあり、着用シーンでVゾーンや合わせる靴も変わる。
そうした知識なしには接客時の説得力は出ないので、新人は懸命に学ぶ。オタク的に趣味にのめり込むことを「沼にハマる」と言うが、裾の丈やポケットの位置、ステッチの数まで凝りだすときりがないメンズのドレススタイルは「やり込み要素」満載だ。
その店の主力客は40~50代だが、「沼にハマった」若手スタッフがSNSでスタイリングやお薦め商品を発信し始め、最近は20代の客も増えてきたという。セレクトショップのメンズドレスはマニアックなカテゴリーになりつつあるが、奥が深い分、規模は小さくとも世代を超えた結びつきの強いコミュニティーを作りやすい。