あるアパレル企業の創業者に起業の話を聞いた。立ち上げから数年は月商2万~3万円程度。アルバイトをしながら何とかやり繰りしていた。というよりもアルバイトで家族を養っていたのが現実だ。それでも、1人で仕事をこなしていた時期から「全ては顧客のため」という企業理念を掲げてきた。
理由は、起業する以前の飲食店での経験から。皿洗いをしていると店主に蹴られ、「下ばかり向いて皿を洗うな。常にお客さんを見て、もう一杯どうですかと声を掛けろ」。これができるようになり、追加の一杯を持っていくと「手ぶらで戻るな。ついでに皿を下げろ」。慣れてくると「皿を下げた時にはおしぼりくらい持っていけ」。
小うるさい店主と思っていたが、しだいにお客から「気がきくな」「ありがとう」と笑顔を向けられるようになった。「若い時は一発当ててやろう、稼いでやろうばかりを考えていたが、お客さんに喜んでもらえることが、こんなにうれしいものと気づかされた」と振り返る。CS(顧客満足)、CX(顧客体験)と様々な言葉が飛び交うが、「お客さんの笑顔、これに尽きる」。
今や立派な企業規模。隅々まで社長が目を配るのは難しい。蹴とばして教えることは許されない時代。創業の理念をどうつなぎ続けるか、厳しい時期だからこそ、原点を大切にしたい。