《めてみみ》命と向き合う

2022/03/04 06:24 更新


 桃の節句を終えると、本格的な春の到来となる。5日は啓蟄(けいちつ)。土の中にいた生き物が春の日差しのもとへ現れるとされる日だ。東京近郊では早くもウグイスのさえずりを耳にする。裏の里山からはタヌキがひょっこり顔を出す。

 身近な野生動物との出合いは、人の気持ちを和やかにしてくれる。とりわけ子供にとっては貴重な体験だろう。ただ、フン害や農作物を荒らすといった被害もあり、自然との共存は簡単ではない。増えすぎてしまった鹿や畑を荒らすイノシシの害獣駆除をする地域もある。駆除された野生動物の命を無駄にせず、食肉や皮を活用する取り組みも進められている。トレーサビリティー(履歴管理)が可能な皮革製品を手掛けるデザイナーも増えた。

 22~23年秋冬の展示会で、リアルファーを使った製品に出合った。世の流れはファーフリー。リアルファーの使用は減っている。デザイナーに聞くと、ファー製品の縫製工場に残っていた在庫を利用して製品にしたという。ファーフリーの流れで工場は仕事が減り、ファーを扱う職人技術も途絶えようとしている。

 果たして何が正解なのだろうか。石油由来のプラスチックのフェイクファーが正解とは言い難いが、命の扱い方も気にかかる。生物多様性が叫ばれる中で、命にどう向き合っていくのかが問われている。



この記事に関連する記事