北極冒険家の荻田泰永さんを取材した。00~19年に18回も北極行を重ね、18年には日本人で初めて南極点を単独かつ徒歩で到達したことでも知られる。その荻田さんが6年ぶりに北極圏に赴き、現地のエスキモーに伝承されてきた、とある岩の存在を探した。
日本のダウンメーカーなどが活動をサポートしている。その関係で取材する機会を得たのだが、話の面白さに引き込まれた。往復で300キロに及ぶ長距離を、そりを引いて歩き続けるわけだから、途中でやる気が出なくなることもあるだろう。そう疑問に思い「モチベーションを維持するコツ」を聞いたところ、「冒険では情熱や願望はいらない」という意外な答えが返ってきた。
いわく「強風や気温は人間の都合でどうにもならない。自然に従い、時には諦めることも大事。意思の排除が大事になる」のだとか。意思の力であらがえない時はすっぱりと諦め、体力の温存や行程の確認、道具の手入れなどに専念すべき、というわけだ。
コロナ禍やトランプ関税のように、ビジネスでも時に大嵐のような事態に直面する。いつでも不測の事態には備えておきたいが、それでも「意志の力ではどうにもならない」こともある。そんな時には荻田さんのようにきっぱりと諦め、次の準備に取り掛かる割り切りが必要だろう。