樹木は伸びるがままに任せると、美しい樹形にならないと言われる。逆にうまく剪定(せんてい)してあげれば健やかに育ち、形も整う。人間の欲に例えると、欲するがままに物事を進めるのではなく、剪定よろしく、欲を抑えながら穏やかに過ごした方が、よどみのない人生が送れる。
そんなことを思ったのは、地方や郊外のアトリエショップのオーナーの話を聞いたからだ。大手企業からの脱サラ組や異業種からの参入者があちこちで起業し、経済的な成功欲よりも前に、丁寧な物作りにいそしんで充実した生活を送っているように見える。
「足るを知る」を地でいくような人生だが、よく聞いてみると少し違う。のんびりやっているのかと思いきや、それなりに忙しいのだという。10年前ならいざ知らず、今はSNSとECがある。生活環境はゆったりしているが、常に情報発信しなければならない。デジタルでつながることで店舗は時空を超え「拡張」するから、国内だけでなく外国から注文が入ることもある。店にもSNSでつながったファンが訪れ、知足どころではない繁盛ぶりのところも。
それを欲と呼ぶかはさておき、都心を離れても健全に事業運営し、小さいながらも日本経済にも寄与しているのだ。そんな欲なら悪くもないだろう。アフターコロナの一つのあり様がこんなところにも出ている。