《めてみみ》納得させる

2023/07/14 06:24 更新


 23~24年秋冬オートクチュールはプレタポルテのトレンドをなぞるように、スタンダードアイテムやリアルを感じさせるコレクションが増えた。もちろん、シンプルでスタンダードに見えて、オートクチュールらしい手仕事の技を取り入れている。ミニマルそうだが、実は技術の粋を集めたスタイルだ。

 7月初旬からのオートクチュール直前、パリ郊外では警察官の移民の少年に対する発砲に端を発した暴動が起こっていた。パリ市内でも一部店舗の略奪などがあり、オートクチュールの開催も危ぶまれた。実際に、いくつかのブランドが関連イベントを取りやめた。フランスは社会の分断を強く感じさせる状況にある。

 そんな中でのオートクチュールの発表に際し、複雑な感情も抱いていた。なにせ、1着数百万円以上の高級注文服の発表会である。一介の新聞記者でしかない自分が、貴族階級を中心とするブルジョアジーのぜいたくな社交の場に立ち会う意味は何なのか。社会の分断のさなかに、一方に加担しているような気分にさえなる。

 今回、最も強く感じたのが、オートクチュールの持つ服飾文化としての財産だ。時代とともに失われつつある手仕事の技を、人類はどう受け継いでいくのか。オートクチュールには、ぜいたくなだけではない、文化的価値の側面もあると自分を納得させる。



この記事に関連する記事