ヨーグルト、みそ、漬け物、納豆、ビール――身近にありすぎて気づきにくいが、発酵食品は不思議だ。微生物の力によってうまみ成分が加わったり、アルコールが作られたり、長期保存も可能になる。洋の東西を問わず、人類は古くから発酵食品を重宝してきたが、それが微生物の働きによるものとわかったのはわずか170年ほど前のこと。
発酵が、繊維を含む素材産業の次世代技術として注目されていると聞けば意外だろうか。微生物が糖や油などを体内に取り込んで素材や原料を作り出すのだ。脱炭素が重要な課題になる中、石油由来の素材を置き換えるものとして期待される。
すでに実用化されているスパイバーの人工たんぱく質素材「ブリュード・プロテイン」、カネカの生分解性ポリマー「グリーンプラネット」はどちらも微生物が作り出す。東レはナイロン66原料であるアジピン酸の元を微生物から製造する技術を開発し、30年の実用化を目指す。
人間に有益な発酵に対し、有害なものを腐敗と呼ぶ。あくまでも人間による区分だが、微生物が物質を変化させるという働きは同じだ。生態系において腐敗がなければ虫や動物の死骸は分解されずに残り、枯れた草木は山のように積みあがる。注目の生分解性繊維もある意味、腐敗によって分解される。発酵も腐敗も微生物の貴重な営みだ。