《めてみみ》問いかけるビスポークスーツ

2024/11/08 06:24 更新


 約20年ぶりにビスポークスーツを仕立てた。20年来の友人でもあるイタリアのファクトリーの社長からの誘いで、ハンドメイドのテーラーリングのクオリティーを確認できた。グレーフランネルのダブルブレストスーツの仕上がりは美しく、とても満足だ。

 ビスポークを久しぶりに仕立てて気づいたことがある。職人の技術もさることながら、注文する客の美的センスが問われていることだ。おそらく20年前にオーダーした時よりも、今の自分の方が美しさへのハードルは上がっている。それはファッションウィークをはじめ、あらゆる美しい服を見続けてきたから。新しいグレースーツには20年間の経験値が反映されている。

 この間、インポートブランドの価格が高騰し続けているが、中には価格とクオリティーのギャップに疑問を持つ商品も少なくない。50万円を超えるデザイナーブランドの既製スーツは、果たして本当にその価値があるのか。ビスポークのハンドメイドスーツとのクオリティーの違いを感じたい。そういう気持ちもあった。

 素材の良しあしはもちろんだが、手で作ると〝品格〟のようなものが宿るのはなぜだろう。ハンドメイドが持つ独特のオーラのようなものが感じられる。ただ問題は、このスーツを長く楽しむには体形維持が不可欠であること。注文服には着る側の努力も求められる。



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