デサントが今夏、岩手県奥州市の水沢工場を約30億円かけ建て替えた。衣料品の国内生産比率が1.5%を下回るなか、巨額の費用を投じたことに驚いたが、実際に工場を取材し、その意義を理解した。
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同工場は看板商品「水沢ダウン」の生産拠点。以前は建屋が八つあり段差も多く、モノや人の移動がしづらかったという。建て替えで材料の裁断、縫製、ボンディングといった一連の工程を一棟でできるようにし、さらにフロア全体をバリアフリー化した。
特に働きやすさにつながっているのは、材料置き場の増設だ。1.5倍に広がったスペースを生かしたもので、各工程の近くに必要な資材を区別して置けるラックが8倍に増えた。職人が必要なパーツを探し、取りに行く手間と時間を大幅に削減。生まれた「ゆとり」は生産数量アップや合理化に向けるのではなく、より複雑な仕様・デザインに挑戦し、具現化するための時間に充てている。実際、水沢ダウンの生産量は年間2万5000着が上限。その一方で新工場稼働後は水沢ダウンの主力モデルの工程数を以前より30ほど増やした。
生産現場では、生産性を高めるための効率化ばかりが求められがちだ。水沢工場が目指すのは、より複雑なものを作り、ブランドの付加価値を高める場。国内工場が生き残る一つの道を提示しているように思える。
