1. 推計人口と実数の差から状況を知る
2015年国勢調査の速報値が発表され、都道府県、市区町村単位で2015年時点の推計人口と実数が比較できるようになった。
図表1は、人口変化の全国的な傾向を確認するために作成した散布図である。★東京都は右上に位置するが、値が大きすぎるため、グラフからは除いてある(5年間の人口増加354,317人、推計値との差164,281人)。
横軸に平成27年国勢調査(実数)の2010年比人口増減(中心線の右がプラス、左がマイナス)、縦軸に推計値(日本の地域別将来推計人口平成25年3月推計)と実数(平成27年国勢調査)の差(中心線の上がプラス、下がマイナス)をとっている。
右上は2010年‐2015年までの5年間に人口が増加し、かつ推計値よりも実数が大きかった都県、右下は人口は増加しているが、推計値よりも少なかった県、左上は人口が減少しているが、実数が推計値を上回った道府県、左下は人口が減少し、かつ推計値よりも少なかった県である。
東日本大震災から時間が経ち、外国人が増えはじめていることもあって、全体的には推計値ほどの減り方はしていない。
このような散布図を用いることで、2040年まで5年刻みにある人口推計に対し、今後、各自治体がどのような方向へ向かうと考えられるのか、推計値と実数との差が生じた理由とともに確認することができる。
(1)都道府県別の状況
人口が増えている(グラフの右半分)のは、東京都(2010年比+354,317人)、神奈川県(同+79,021人)、愛知県(同+73,375人)、埼玉県(同+66,715人)、沖縄県(同+41,320人)、福岡県(同+30,903人)、千葉県(同+7,738人)、滋賀県(同+2,407人)の8都府県である。
平成27年国勢調査で人口増となったこれらの都県も、平成28年住民基本台帳人口(平成27年1年間=国勢調査対象期間の最後の年の増減)では、滋賀県が人口減少に転じ、千葉県、埼玉県、神奈川県、福岡県の4県も自然減を社会増で補っての人口増である。
自然増、社会増は東京都、愛知県、沖縄県のみであり、他県・国外からの転入が減少すれば、すぐにでも人口減に変わる可能性がある。特に神奈川県は+79,021人と5年間で人口は大きく増えたものの推計値に対しては▲20,647人という状況にある。
人口推計からは、神奈川県の約4割の人口を占める横浜市のピークが2015年~2020年、その後緩やかに減少するとされており、その影響が現れたと考えられる。横浜市、川崎市を中心に人口増加が顕著だっただけに状況変化を改めて認識する必要がある。
個別には、推計値以上に大きく人口が増えた都県がある一方で、減少した府県もあり、自治体間の差、違いがより鮮明になっている。推計時点と状況が変わった結果であり、今後の予測、状況判断にも大きく影響する。
あまり一般には知られていないが、ふるさと納税が盛り上がりを見せる一方で、自治体が失う個人住民税は2015年東京都249億円(受入額12億円-財源流出額262億円)、神奈川県84億円(20億円-103億円)など、持ち出しの多い自治体には大きな金額になっている。市区町村単位では通常の運営に支障をきたす自治体も出はじめているというから喜んでばかりはいられない。
同様に、日本全体で人口減少が進んでいる状況を考えれば、一部の都市に人口が集中することで、これまで以上に人口が減少する地域が生まれることも十分認識しておく必要がある。
今回の国勢調査結果▲94.7万人も8都県(2010年人口5090.5万人)の人口増加65.6万人(人口比1.3%)と相殺しての数値であるから、人口が減少した39道府県(2010年人口7,715.3万人)では実に160.3万人(人口比2.1%、都道府県別人口25番目に相当)が減少していることになる。
(2)東京圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県) 人口が集中する大都市の状況
①東京都
右上に位置する港区、江東区、板橋区、大田区、世田谷区、台東区、大田区、品川区など、この5年間で人口が2万人以上増加した区は多い。しかも、それらの多くが推計値を大きく上回っている。
一方、人口が減少し、推計値も割り込む(左下)のは、都心から離れた八王子市、立川市、東村山市、国立市、多摩市、昭島市などである。
特定の区の人口増加は、東京臨海副都心などの開発・再開発、特に超高層マンション開発(集計上、一つの目安として20階以上 株式会社不動産経済研究所)の影響が大きいと考えられる。平均して一棟300~500戸、50階以上の超超高層マンションでは一棟800~1000戸にもなり、小さな町や村に相当する人口が一気に増えることになる。
しかも50階以上の超超高層マンションだけでも西新宿、勝どき、晴海などに14棟、13000戸も計画(分譲済み含む)されており、50階以下のマンションを加えればかなりの住戸が供給されることになる。いろいろと環境整備が進んでいることを考えれば、人口が集中するのも無理はない。
東京都は、2015年国勢調査1352万人を基に、これまで2020年としていた人口のピークを2025年1398万人と修正したが、平成27年住民基本台帳人口(平成26年1年間)、東京都日本人と外国人を合わせた総計+95,548人(うち23区86,256人)、うち外国人+23,032人(うち23区20,277人)、平成28年住民基本台帳人口(平成27年1年間)、同+117,764人(うち23区103,114人)増、同+31,600人(うち23区27,779人)と、23区を中心に日本人、外国人とも増加数は増える傾向にある。
今回の国勢調査が東日本大震災の影響によって外国人の増加が少ないことを考えると、2020年、2025年には、さらに多くの人口増加があってもおかしくはない。
②神奈川県
川崎市中原区(5年間 +13,551人、推計値との差 +10,025人)が右上の端に位置しているのは、武蔵小杉の超超高層マンションを中心にして、短期的に人口が集中したことが理由と考えられる。川崎市は全7区で人口が増えており、推計値に対しては7区のうち4区で下回っているが、中原区が大きく上回ったことで川崎市全体の増え方(5年間+49,788人、対推計値+6,971人)も大きく見える。
ただし、武蔵小杉も街はあまり大きくなく、朝の通勤時間帯には改札に行列ができるまでになっているという。インフラを含めた街のキャパシティからは、このままのペースで人口が増え続けるとは考えにくい。
横浜市は18区のうち10区で人口が増えているが、金沢区▲6,199人、港北ニュータウンを抱える都筑区▲5,421人など13区で推計値を下回っている。これまで人口増加を牽引してきた都筑区、青葉区、緑区などの増加が頭打ちになったことで、横浜市(5年間+37,394人、対推計値▲24,771人 都道府県まで含めた全自治体の中で最も推計値とのマイナスかい離が大きい)の人口増加は川崎市(同+49,788人、同+6,971人)よりも少なくなっている。
370万人と日本一大きな横浜市の人口は2015年~2020年にピークを迎え、その後緩やかに減少するとされている。特に都筑区=港北ニュータウンのように、人口増加を背景に大型商業施設をはじめとする様々な業態が多数出店してきたエリアは今後何らかの修正を余儀なくされることになる。
人口増加によって大きく膨らんだ都市部の「宴の後」は、規模が大きく、箱物が多いだけに対応が難しい。
③千葉県
武蔵小杉と並んでマスコミに取り上げられることの多い流山市(おおたかの森など)は、つくばエクスプレスの開業によって東武野田線延線というポジションから劇的に状況が変わったエリアである。都心から近くなったことで、豊かな自然や子育て環境が揃う穴場的エリアとなり、20歳代、30歳代の転入が目立っている。
また、柏市は未来型の大型ショッピングセンター(セブンパーク アリオ柏)に象徴される新しい街づくりによって注目され、市川市は本八幡駅前の再開発により人口が増加に転じている。
千葉ニュータウンで先行した印西市は増加傾向が一段落し、新しく生まれた次世代の開発・再開発地域に賑わいは移っている。流山市(おおたかの森など)のような分かりやすい開発・再開発には若い子育て世代が積極的に集まるから、しばらくは活況が続く。
一方、東京から離れた古くに開けた地域で、再開発計画がなく、転入の少ない(転出超)閉鎖的エリアは、少子高齢化・人口減少が進むから二極化が鮮明である。
④埼玉県
さいたま市(5年間+41,819人、推計値との差+19,088人)の数値は大きいため、グラフからは外してある
右上に位置する三郷市は、千葉県柏市などと類似している。新三郷駅周辺の新三郷ららシティには、ららぽーと新三郷、COSTCO、IKEAがあり、その南西にはスーパービバホーム三郷店、イトーヨーカドー三郷店、MOVIX(映画館)、湯けむり横丁(温泉)などが集まるピアラシティみさとがある。
近くにはイオンレイクタウンもあるから、周辺は郊外型の一大ショッピングゾーンとなっており、宅地開発と相まって人口が増加している。
一方、もともと東京都に近いことから通勤の利便性が高く、人口が集中していたさいたま市、川口市などの県南地区は、路線の延伸・乗り入れなどによってさらに利便性が高まり、それに高層マンション開発が加わったことで、改めて人口が増加しはじめている。東京23区内の再開発と似たような状況にあると言ってよいだろう。
2.地域特性によるタイプ分類
東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)について見ると、
①都心に近く、超高層マンションが数多くつくられる開発・再開発エリア(短期間に急激に人口が増え、限られたエリア内に超高密度で人が暮らす)②新線や路線の延伸・乗り入れなどで都心へのアクセス、環境面が大幅に改善された開発・再開発エリア(子育て世代などを中心に新たな人口流入が起こっている)③都心から離れた古くに開けたニュータウンなどで新たな再開発の計画がない、転入が滞った閉鎖型エリア④東京圏の中でも都心から遠く離れた海・山に近いエリア(都心との関係が希薄で経済活動の多くが域内で完結する)、…というように大きくいくつかのタイプに分けてとらえることができる。
①、②のエリアは、短期間に大幅な社会増が起こり、若い子育て世代も流入して自然増が加わることで、しばらくは活況を呈すことになる。③、④は人口移動がなく、域内に限定された中で少子高齢化・人口減少が進む、というように同じ東京圏にあっても全く異なる状況にある。
農林水産政策研究所が提供する食料品アクセスマップを見れば一目瞭然だが、東京圏であっても人口が集中し、商業集積しているエリアはほんの一部でしかない。
東京から一定以上の距離にある地域にとっては、もともと都内との関係が希薄であるから、東京への一極集中も超高層マンション開発も全く関係のない世界の出来事のように思える。
今後、大きく問題となるのは、東京周辺に位置するベッドダウンだろう。昼夜人口比率が低く、人口は多少増加、もしくは維持という状況にあってもマーケットそのものは大きく広がることはない。
言い換えると、明確な産業を持たないサラリーマンだけの街は、高齢化し、退職者が増えた時には地域全体の活力が低下してしまう。
23区内の開発、商業集積が進めば進むほど、23区と一体化しているベッドタウンへの影響は有効求人倍率の低さ、一人当たり年間商品販売額の低さなど、様々な形となって表れる。
23区内には様々な開発・再開発プロジェクトが目白押しであり、主要ターミナルへの距離(時間)が近いエリアで再開発が進めば、再活性化する(ライフサイクルの衰退期から次のサイクルの成長期へと向かう)エリアが確実に増える。
23区内には公園、史跡、著名人ゆかりの歴史的な建造物などの他、美術館・博物館、劇場、ホールなど各種文化施設、スポーツ施設…等々、多くの要素、機能がコンパクトに集まっており、活用の仕方次第で非常に豊かでエキサイティングな生活を送ることもできる。
また、多くの区で子育て世帯向けに引っ越し費用や家賃補助、子育て関連の保育・教育・医療費補助などを行っており、細かく調べていけば周辺ベッドタウンや地方都市よりも明らかに手厚い支援が受けられる。
大学の定員増も東京都中心に多く割り当てられており、教育・医療などを含めた生活環境、ビジネス・通勤環境などについての理解が進めば、これまで以上に全国から人口を吸収する可能性は高い。
周辺の県、都下のベッドタウンといえども例外ではなく、場合によっては、昼間の通勤・通学だけでなく、転出という形で23区内に生産年齢人口(15-64歳)を吸収される可能性は否定できない。(2014年東京都と埼玉県・千葉県・神奈川県間の転入・転出人口はそれぞれ20万人弱)
23区内の再開発、インフラ整備が進むことで、住宅や教育・医療・福祉などのキャパシティが大きくなれば、さらに人口を吸収する能力は高まっていく。
一方、「買い物難民」の存在が初めて指摘されたのが横浜市郊外であったように、ドーナッツ化した際のベッドタウンが高齢化すると域内で日常的な活動の多くが完結してしまう。人口移動もないから閉鎖エリアの中で高齢化・人口減少が進み、街としての機能を維持することができなくなる。
東京圏にある多くのベッドタウンが近い将来直面すると考えられる大きな課題である。
このように東京圏は様々な特性を持つ地域が混在する。ある意味では人口減少・高齢化に直面する我国の縮図として見ることができる。
ダイレクトに影響を受ける行政ばかりでなく、小売業をはじめ地する多くの事業者が人口減少・高齢化によるリスクを明確に認識し、近い将来必ずおとずれる状況変化に対して準備をする必要がある。
こまつざき・まさはる エム・ビィ・アイ社長 芝浦工業大学工学部情報工学科非常勤講師。76年芝浦工業大学工業経営学科卒、76年イトーヨーカ堂入社。82年産業能率大学入職(経営開発研究本部・主幹研究員)、97年退職、現在にいたる