岐阜県の高山を中心とする飛騨地方で100年近く愛されてきた作業ズボン「乗鞍印」が知名度を高めている。3年ほど前、生産元の後継者不足で途絶える寸前となっていたが、専門店「山の耳」を営む峐下(はげした)康一さんが引き継ぎ、高山の伝統と歴史に根差す「なくしてはいけない」文化として、育てている。
(森田桃子)
乗鞍印は約100年前に兵役から帰還した元日本兵が考案したもの。腿(もも)と尻は太く、裾に向けて細く作られた軍服を基本とし、騎馬隊が使いやすいよう、こすれやすい尻や膝は生地を2重にした乗馬ズボンだ。ふくらはぎで切り返しを入れ、平面的な布に丸みをつけて立体的にする、いせ込みの手法を膝に取り入れ、可動域を確保している。動きやすく丈夫なため、農作業や山仕事、茅(かや)葺(ぶ)きなどの作業着としても親しまれてきた。100年前に作成されたこのパターンは約80年前に特許を取得。生産、販売を飛騨高山で行い、素材などを変化させながら3代にわたり受け継がれてきた。