アパレルやファッションの市場規模が縮小する中で、数少ない成長分野として注目されているのがスポーツ市場。インナーメーカーは、女性の体の研究や直接肌に触れるアイテムを作ってきた蓄積を、スポーツブラを始めとするスポーツインナーの分野で強みを生かそうとしている。
(壁田知佳子=本社編集部インナー担当)
新規参入が活発
スポーツ庁の調査によると、昨年度の成人の週1回以上のスポーツ実施率は42.5%(女性は41%)。月に1~3回を含めると半数を超える。
スポーツウェアの選択肢が広がったことも、女性のスポーツ参加を後押ししている。種目や用途、季節などの機能面だけでなく、ファッションとして楽しめるようなウェアやグッズが、スポーツメーカー、ファッションブランド、SPA(製造小売業)などから登場している。
インナーメーカーのスポーツ向けは、ワコールの「CW-X」やフジボウアパレルの「B.V.D.」のように以前から力を入れているブランドに加え、新規参入や新規ブランド導入が活発化している。
トリンプ・インターナショナル・ジャパンは17年春からグローバルブランド「トライアクション・バイ・トリンプ」を日本に導入し、17年秋冬からアイテムや販売店舗を拡大していく。グンゼは17年春に「アディダスネオ」を導入した。アツギもこの間好調なのがインナー分野で、特にスポーツの「クリアビューティアクティブ」は、ヨガ用途に向けた商品開発やプロモーションを強化している。
CW-Xはタイツのイメージが強いブランドだが、ここ数シーズンはタイツとスポーツブラを両輪にした女性向けのプロモーションを強めている。17年3月期のスポーツブラは7%増となり、今期に入ってからも毎月、1ケタ~10%増で推移している。スポーツ分野とはいえ、「ブラジャーでは負けられない」と意気込みは強い。「スポーツブラは安定」しているというフジボウアパレルは、「競合が激しくなっているが、市場そのものが大きくなっていると感じる」と話す。
2.5~3倍の潜在市場
スポーツ時に、専用の下着を使う人はどれくらいいるのだろうか。
ワコールが出版した『ブラパン100』によると、「スポーツ時に専用の下着を使う」と回答した女性は3割。トリンプの調査では、(スポーツをする女性の中で)「スポーツブラを持っている」割合は約4割。どちらを見ても、スポーツをするときに専用の下着を使わない女性のほうが多いという結果だ。
使わない人の意見は、「おしゃれなものがない」「小学生や中学生みたい」など、大人の女性にふさわしいものが見つからない、もしくは「どこに売っているか分からない」。トリンプの調査では、スポーツ時に使うブラジャー(複数回答)は、通常のワイヤブラが39.1%と最も多く、スポーツ時も〝いつものブラ〟を使っているようだ。
現状の着用率は3~4割と低いが、見方を変えれば、大人女性のマーケットだけで2.5~3倍の潜在市場があるとも取れる。
スポーツブランドやSPAブランドでもスポーツブラやスポーツインナーを販売しているが、インナーメーカーが強みを発揮できるのは、女性の体の研究の蓄積やサイズ、仕様などの面だろう。
例えばサイズでは、ワイヤブラはアンダーバストとカップサイズの組み合わせで表記され、サイズは細分化されている。一方のスポーツブラはS、M、Lの展開が多い。メーカーやブランドにもよるが、ブラジャー選びで慣れ親しんだカップ表記や、アンダーバストサイズで表記するケースもあるのは、インナーメーカーが強みとする部分。特に大きなカップサイズなどイレギュラーサイズの女性にとっては大事なポイントだ。
最近では、ヨガやストレッチなどの軽スポーツや、家事やガーデニングのような動きのある日常生活で使いやすいインナーも登場している。肩回りが動かしやすいYバックスタイルや、吸水速乾などの機能素材を使ったものが多い。快適性をうたうブラジャーを代表するワコールの「ゴコチ」「スハダ」、トリンプの「スロギー」などからも、軽スポーツを意識した新しいカテゴリーが登場している。
美と健康への関心の高まりに加え、20年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、行政や企業がスポーツへの取り組みを強化しており、スポーツ参加人口はさらに増えると予想される。インナーメーカーは専業としての強みをいかした物作りに加え、商品認知度を高めることが、成長マーケットで存在感を示すことにつながる。