ロンハーマンの心地よい空気感、三根氏に聞く

2016/01/01 06:10 更新


 サザビーリーグ執行役員 三根弘毅さん

「一番偉いのは、お客さんを幸せにする人」

 嘘のない"ハッピー"が漂う店――ロンハーマンが、憧れの対象であり続けている。1号店から6年が経った今も、オープン当日には行列ができ、多くの人でにぎわう。モノだけでは売れない時代に、ロンハーマンは心地よい空気感を売り物にしてしまった。他が追随できない店作りは、どこからくるのか。改めて三根弘毅さんに聞いた。

 

いい店は心の持ち方までも変えてしまう店

■一日中、一緒に笑う

 ──今夏でロンハーマンの出店が終了した。6年を振り返って。

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 みんなでお客さんを幸せにしたいっていう気持ちは何も変わっていないと思います。人数は増えたけど、ワクワクしたい、お客さんを笑顔にしたい、刺激を与えたいと思う気持ちは同じ。人数が増えた分だけ面白いアイデアも増えるから、逆に濃くなっています。濃くあり続けられるのは、笑いがあるから。笑顔が絶えない職場っていうのが一番重要です。

一日中一緒にいるし、一日中笑ってるから、わざわざ仕事終わりに飲みに行く必要もない。朝来ないとか、会議に遅刻するとか、社会不適合者みたいなやつも多いけれど、小さいことはどうでもいいんです。センスが良かったり、新しいことを生み出したり、お客さんを幸せにしてる人が一番偉いと思っています。

 

 ──とはいえ売り上げも大事だ。

 数字はもちろん評価に入ります。でも、すごく売り上げが悪い店でも、スタッフがすごく楽しそうにしていると、自然と良くなる。いい店だなと思ったら、また来てくれるから。逆に売れている店が、さらに伸ばそうとすると落ちてきたりする。一番大事なことを忘れちゃうんです。

ちょっとした笑いとか、掃除、あいさつ、相手を思いやることとか。気持ちの基本を忘れちゃうと、お客さんにはそれが伝わる。いい店とは、気持ちの持ち方までも変えてしまうような店。買い物してもしなくても、明日も仕事頑張ろうかなと思ってもらえたり、心の持ち方に変化が起きる店ですね。

スタッフの休憩所の前には、「たくさんの仕事の中から選んでくれてありがとう」というメッセージが貼ってある
スタッフの休憩所の前には、「たくさんの仕事の中から選んでくれてありがとう」というメッセージが貼ってある

 

 ──お客さんとのコミュニケーションをすごく重要視している。

 店はコミュニケーションの場であって欲しい。だからネット販売は一切していません。やればすごくもうかるのは分かっているんだけれど。この間、500万円のブレスレットを通販してくれって地方から問い合わせがありましたが、来ないと売りませんって言いました。送って段ボールを開けて商品を見るよりも、店でお話して、これ買うわって思ってもらったほうがよっぽどいい。

 買い物する経験自体を売るっていうのをずっと言っています。その経験自体がエンターテインメントで、お客さんに楽しんでもらいたい、何年後も思い出に残ってもらいたい。

■高く買われるぐらいの人間に

 ──店内には、客に向けて様々なメッセージが貼られている。

 ストックルームにも貼ってます。スタッフの休憩所の前には、「たくさんの仕事の中からうちを選んでくれてありがとう」、業者の方の出入り口には「いつも本当にありがとうございます」って。感謝の気持ちを忘れないこと。それが当たり前だと思っています。掃除のおばちゃんの名前も覚えられないようじゃだめだぞって。

スタッフに配る冊子には、三根さんがスタッフに対して守る「約束」のほか、「挨拶」「チームワーク」「電話対応」「努力」「自覚」などの10項目が書いてある
スタッフに配る冊子には、三根さんがスタッフに対して守る「約束」のほか、「挨拶」「チームワーク」「電話対応」「努力」「自覚」などの10項目が書いてある

 

 スタッフには、「強く優しく」と題した冊子を配っています。例えば「プロミス」のページには、「仲間にはどこの会社に行っても通用し、認められる存在になって欲しい。個人個人を魅力ある存在にさせることを約束します」と書いてあります。僕からスタッフに対しての約束です。引き抜かれたとしても、他に高く買ってもらえるぐらいの人間になりなさいってこと。

 

 ──接客力はどのように養っているのですか。

 販売ロープレはやっていませんが、あいさつのロープレだけはやっています。あいさつ三種類っていうのがあって、一つ目が、来店時の「こんにちは」。声のトーンで、お客さんに遠くから来ていただいてありがとうございますっていう気持ちが込もっているかどうか。

挨拶のロープレだけは唯一実施している。「こんにちは」の一言に、どれだけ感謝の気持ちが込められるかを大切にしている
挨拶のロープレだけは唯一実施している。「こんにちは」の一言に、どれだけ感謝の気持ちが込められるかを大切にしている

 

二つ目が、お客さんとすれ違う時に止まってやる「こんにちは」。三つ目が、接客中に別のお客さんの横を通る時の会釈。出来そうで出来ないんです。立ち止まるタイミングで、きれいにも雑にも見える。距離感が難しい。閉店後に二人一組になってやってくれています。

 最初のころは直接注意していたけれど、人数が増えるにつれて、これを維持するにはどうするか考えて始めました。大切なのは、「こんにちは」に込める思いです。始めたころの、お店の中に入ってきてくれっていう気持ちを忘れないでいたい。売れて当たり前、にはなりたくない。

 

 ──今後のビジョンは。

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 ロンハーマンで育ったスタッフにチャンスを与えていきたい。一生、千駄ヶ谷の店長でいるわけにはいかないじゃないですか。例えば店長のナンバーワンになれば、新規事業の部長を任せたり。カンパニー制になって、ロンハーマンを軸にいろんな事業をやっているのは、それも理由の一つです。

  事業として新しいことが増えて、もっと面白いことが起きればいいなって思います。マネジメントが苦手でも、売ることに長けている人にはその専門職を与えてあげたい。そういう人が店長より地位が高くてもいい。そういう時代に来てるのかなと思いますね。

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