繊維産地をもっと楽しもう

2017/05/27 06:30 更新


【センケンコミュニティー】繊維産地をもっと楽しもう

 日本各地にあるテキスタイルや縫製などの繊維産地。新幹線や飛行機ですぐに行けるとはいえ、東京や大阪からだとそれなりに時間がかかるもの。一生懸命、仕事をするのもいいけれど、遠くの産地に行ってすぐ帰ってしまうのはもったいない!

 というわけで、今回のセンケンコミュニティーでは山梨県、兵庫県西脇市、児島、井原などの三備地区といった地域を取り上げ、美術館など、出張の息抜きに楽しめそうなスポットを紹介します。

山梨県富士吉田市

 東京からバスや電車で約2時間。富士山の北麓(ろく)に位置する山梨県富士吉田市は、豊かな水源を背景に、先染め織物を得意とする産地だ。特に細い糸を高密度で織り上げることにたけ、服地だけでなく、ネクタイ地やインテリア用途、傘地、ストールなど様々な商品を生産している。富士山や河口湖、富士急ハイランドといった周囲の観光名所に目が向きがちだが、市内を歩けば、つい寄り道したくなるスポットがいっぱい。ノスタルジックな街並みを楽しみながら、点在する織物工場をめぐりたい。

織物業が生んだ名物うどん

吉田のうどん。市内に60軒以上。昼に閉める店が多いなか、「べんけい」は夜8時まで営業 

 山梨県の伝統的な粉食料理にほうとうがあるが、富士吉田のソウルフードは「吉田のうどん」。特徴は、硬くてコシが強いねじれ麺。富士吉田の織物業が最盛を極めた昭和初期、織物業を営む家庭では女性が織機を動かし、男性は繊細な織物を扱う女性の手が荒れないよう、昼食に手軽なうどんを打つようになったそう。男性が力任せに練り、腹持ちがよくなるよう食塩を入れたことから、この特徴が主流になったとされている。具は、ゆでキャベツ、油揚げ、馬肉が入っていることが多い。

昭和の香り漂う新名所

新世界乾杯通り。歓楽街の面影を残しながら、新しい店舗を迎え入れ、再び活気のある路地に

 下吉田駅から富士山駅へ商店街を道なりに歩いていると、突如、頭上にポップな看板が現れる。誘導されるがまま路地を進むと、「Barセクシー」「愛人」といった怪しげな看板が立ち並ぶ。昭和レトロな町並みのなかに、モダンな飲食店が明かりをともし、不思議な空気を作っている。西浦地区と呼ばれるこの路地は50年前、当時好景気をおう歌していた織物業者をターゲットに、200軒以上の飲食店がひしめきあい、「日本三大歓楽街の一つ」として紹介されるほどだったそう。しかし、織物業の縮小とともに廃れ、空き店舗だけが取り残された。久しく手つかずのままだったが、一昨年から再生プロジェクトがスタート。当時の街並みはそのままに、一角を飲食街「新世界乾杯通り」としてリノベーションした。現在は5軒が営業。随時改修し、新店を迎え入れているようで、完成形が楽しみな新スポット。

少し足を延ばしニットにワイン

石和温泉駅ワインサーバー。山梨のワイン16銘柄を25ミリリットル200円から気軽に試すことができる

播州産地(兵庫県西脇市)

 山梨県はニットの産地でもある。甲府市を中心に、アパレルや小売りと直接取引する個性的なニッターが多いのが特徴だ。

 ふらりと立ち寄るのにぴったりなのが、甲府駅からほど近い石和温泉駅。昨年、国内初の駅中ワインサーバーが設置された。地元のワイナリー10社による16種類のワイン(赤、白、ロゼ)が1杯200円から楽しめる。操作は、タッチパネルで銘柄と量を選び、専用のプラスチックグラスをノズルにかざすだけ。好みのワインは、駅の売店で購入できる。

 ギンガムチェックなど先染め綿織物で知られるテキスタイル産地の兵庫県西脇市。最近では市長が西脇ファッション都市構想を掲げ、若手デザイナーの移住を支援。市内には産地に住むデザイナーとして有名な玉木新雌さんのアトリエ兼ショップもある。兵庫県の中央やや東に位置する市で、大阪からはバスで1時間45分ほど。市内中心部に奇麗な川が流れる緑豊かなまちだ。

横尾忠則の足跡たどる


市内中心部に点在するY字路

 西脇市が生んだ有名人というと歌手のトータス松本さんや元プロボクサーの長谷川穂積さんが挙げられるが、忘れてはいけないのが日本を代表する美術家、横尾忠則さんだ。代表作「Y字路」の多くは市内に点在する実在のY字路から着想を得て描かれたもの。市内を散策して探してみるのも楽しそうだ。

 日本へそ公園駅のすぐ近くある「西脇市岡之山美術館」も見逃せない。もともとは西脇市出身の横尾忠則さんの作品展示と地域活動を主たる事業として1984年にオープン。建物は建築家磯崎新氏の設計によるもので、外観はホームに停車している3両連結の列車をイメージして設計された。現在では横尾忠則さんの作品は館内に常設展示していないものの、屋外には同氏の陶板壁画を設置。様々な現代美術の展示拠点となっている。

地域の歴史に触れる

旭マーケットは木造アーケードならではのレトロな雰囲気 

 かつては日本のテキスタイル輸出を支えた播州織。最盛期の87年には年間約3億9000万平方メートルを生産していた。市内には多くの映画館やボウリング場があり、大変なにぎわいだったという。

 のこぎり屋根の建造物など当時の面影をしのばせる建造物も残っており、その一つが木造アーケード建築の「旭マーケット」だ。大正末期から昭和初期にかけて播州織の工場で働く女性の共同宿舎として使われたもので、現在でも住居として使われている。お昼ごはんには、働く女性の味覚に合わせて甘い味付けになったという西脇ラーメンもオススメだ。

産地企業の製品が集結

様々な製品が並ぶ播州織工房館 

 工場を改装したショップである「播州織工房館」には、産地企業のオリジナル製品が多数販売されている。また、実際のレピア織機や手機織機も展示されている。洋服のほかに生地や様々な雑貨も販売、地域情報のパンフレットなども置いてあり、一度のぞいてみるのもいいかもしれない。

三備地区(岡山県倉敷市児島)

 岡山県と広島県にまたがる三備地区。岡山県倉敷市の児島にはワーキングユニフォーム、学生服、ジーンズなどのアパレルと縫製工場、洗い加工場が多く、岡山県井原市にはデニム素材や縫製、福山にはワーキングやカジュアルのアパレルや縫製工場に加えデニム素材の生産も多い。倉敷や尾道といった一大観光地に行く出張者も多いが、産地にも様々な名物、名産地がある。

うどんとジーンズと


数奇屋造の建物でこだわりのうどんを楽しむことが出来る梅荘

 児島でまず挙げられるのがジーンズストリート。当初は出店する企業も少なかったが、現在では37もの店舗が軒を連ねる一大ショッピングストリートとなっている。そんな児島で昼にお薦めしたいのがうどんだ。瀬戸内海を挟んですぐ海の向こうが香川という土地柄、かつては出稼ぎに来る人が多く、昔からうどん屋さんが多いそうだ。その中の一つ「梅荘」は、登録有形文化財に指定されている趣のある建物。1902年に別荘として建てられ、京都から大工を呼び、庭園にもこだわるなど2年あまりを掛けて完成したもの。注文を受けてからゆでるという、うどんも国産小麦だけを使用。つるっとしたのどごしと歯ごたえがたまらない一品だ。

デニムの発信拠点オープン


ミュージアムも併設し井原デニムの歴史も合わせて紹介「井原デニムストア」

 多数のデニムメーカーや縫製工場などがあり、ジーンズの聖地児島に対して、デニムの聖地とも言われる岡山県井原市。駅前にある「井原デニムストア」がリニューアルし、ショップに加えワークショップやミュージアムも備えた設備に生まれ変わった。

 地元企業が展開するブランドジーンズやデニムゆかたなどを揃えるほか、実際に生産できるスタジオも完備。13台のミシンがあり、ジーンズが生産できる設備も整えたことで、産地の生地を使ったワークショップなども開催する。ビンテージジーンズや歴史を紹介した映像も展示し、情報発信に取り組んでいる。

歴史ある蔵で触れるアート


築150年の蔵をリノベーション。
大きな梁(はり)や柱は当時のままのかたちで使用した「鞆の津ミュージアム」 

 福山駅からバスで約30分。鞆の浦にある「鞆の津ミュージアム」は、常識的な美的規範から〝逸脱〟した方法で生み出される多様な創作物を中心に調査・展示している特徴的な美術館。「世の中に知られざる価値観にふれる機会をつくり、お互いの存在や多様性を認め合える社会の実現に貢献する」という理念に基づき、障害のある人がつくる作品など一般に「アウトサイダー・アート」と呼ばれる表現も展示している。

 3日からは企画展「原子の現場」を開催。被爆者などが体験をもとに作った創作物をはじめ、直接の戦争経験がない世代が制作した核や戦争、その記憶にまつわる表現と展示を通じて、互いの生を尊重し、共に在るための方法について考える機会を生み出している。




この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事