ブリュッセル中央駅からほど近い、音楽、舞台、美術館の複合施設、Bozarにて、少し変わったコンセプトのデザインとアートの展覧会TRUC TROCが開催されました。
展覧会タイトルにある ”TROC” とは、フランス語で物々交換のこと。その文字通り、ここでは、展示されている作品と何かを交換できる可能性があるのです。
この展覧会の形式は、「美術作品は、高価で手が届かない」という問題へのひとつの解決方法として考え出されたそうです。ベルギーでは、インテリアの一部として、絵画や写真作品が取り入れられていることが多いのですが、それでも、作品を新たに購入することは、特別な機会なのかもしれません。
この展覧会は、今年で10回目。前回までは、美術作品のみの展示でしたが、今回からは、デザイン作品も含まれるようになり、約300名のデザイナーやアーティストの参加がありました。かなり広い会場は、800点以上の作品で見事に埋め尽くされ、盛大なオープニングパーティーは午前2時過ぎまで続き、
沢山の来場者を迎える大盛況の展覧会となりました。
展覧会会場の入り口では、ポストイットを渡されます。
ここには、名前と連絡先、そして、何を作品と交換したいのかを記入するようになっています。
観覧者は、気に入った作品を見つけると、その場で書き込み、
それを作品のそばに張り付けるのです。
大人も子供も、作品を見ながら、何と交換したいかを考え、楽しみながら書いています。そのメッセージの内容は、さまざまです。
「海沿いの別荘に滞在2週間」
「ブルガリア旅行1週間」
「ホームメイドのイタリアンフルコース2人分」
「ロックフェスティバルにご招待」
「ロシア語授業12回」
「10回分のマッサージ券」
「おばあちゃんの最高に美味しいリンゴのタルト」
などなど、本当に多種多様なアイデアがどんどん重ねられていきます。
残されたこれらのメッセージを読むこともまた、作品を解釈する違った視点のひとつとなるのです。
「手に入れられるかもしれない」という現実味は、作品をより身近な存在に感じさせ、日常生活とは切り離されている通常の展覧会とは、ひと味違った感覚で、作品を目にすることが出来ます。そして、このバラエティに富んだ作品群を一度に目にすることで、自分で選択するという楽しみも味わえます。作品を眺めるだけでは退屈しがちな子供たちも、ここでは、自分の自由な意見を持って作品と対峙することが出来るのです。
この展覧会では、提示された作品を、ただ鑑賞するというわけでもなく、消費する商品として選ぶというわけでもなく、作品と観る人との距離を近づけ、従来とは異なる新しい関わり方が生まれていました。つくり手側も観る側のダイレクトな意見を聞け、双方が共に楽しめる参加型の展覧会といえるのではないでしょうか。
今後、テキスタイルやファッションも含むデザイン部門をさらに充実させる計画とのこと。次回のTRUC TROC展が、ますます楽しみです。
TRUC TROC展ウェブサイト:http://tructroc.be
前田彩子 パタンナー、企画デザイナー等を経験後、京都工芸繊維大学大学院博士課程修了。ベルギー政府助成の制作研究員を経て、ブリュッセル王立美術アカデミー修士課程修了。執筆、制作活動を継続中。NEKOEYES (www.nekoeyes.com)主宰、ライター。