スズサンは、名古屋市緑区の名鉄有松駅前に直営店を開設した。素材加工業から出発した同社をハイブランドへと転換し、次の成長を目指す。ブランドのクリエイティブ・ディレクターを兼務する村瀬弘行CEO(最高経営責任者)は、「アパレルや服飾雑貨、ホーム用品・インテリアなどスズサンブランドの世界を総合的に見せるショールーム」として日本国内でも発信を強める。
(浅岡達夫)
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スズサンが物作りの拠点とする絞り産地・有松を、産地内の関係者とも連携して発信していく。「海外にも広く紹介したい」考えで、地域としての振興も進める。
直営店を入り口に
スズサンは、有松・鳴海絞り産地の有松地区の生産加工卸としてスタートした。5代目の経営者である村瀬CEOがドイツに「スズサン」ブランドの会社を設立し、独会社と有松の本社を経営統合後、生産は日本、販売は主に欧州という形に移行した。「家業から組織への変更」も進め、生産やマーケティング、企画の若手社員が入社。ハイブランドを支える組織作りが進む。
スタッフの拡充に合わせ、旧東海道宿場町の有松の街道筋に、工房と体験・ワークショップの拠点で土産物などを扱う「テトフ1608」や今回の直営店を設けた。「スズサンの機能をこの4拠点を通して知ってもらいたい」とも話す。
一方、海外の顧客が「スズサンのバックグラウンドを知りたい」として有松を訪問する機会が増えた。「欧州のハイブランドは工房を見せてブランド価値や背景となる技術や地域を紹介している」とした上で、「当社の取り組みは物作りの特徴だけでなく、日本ならではの産地を形成する人や生活を体験する場にもなる」。そこで「ブランドの全てを網羅する直営店を入り口として有松を経験する人を増やしたい」考えだ。
組織基盤を整える
次のステージとして、「地域振興を目指し産地内での連携を増やし、絞り産地であり、日本の伝統的な生活の場である有松を知ってもらう」として、有松を体験・観光するツアーを始めた。スズサンの4拠点のほか、「例えば、産地の老舗である竹田嘉兵衛商店の茶室など歴史的な建物を訪ね、400年の歴史を持つ有松を感じてもらう」狙いがある。
企業としての成長も目指す。ここ数年、セレクトショップや行政など色々な分野からスズサンに若い社員が入社、「ブランド運営や広報・販促だけでなく新しい仕事を開発する受け皿になる」と期待している。「海外向け販売や経営など、今後組織の基盤を整え次のステージに向かう体制が整ってきた」という。
「有松の伝統的な文化と歴史、そして絞り生産地から始まったデザインなどを訴え、ブランドや企業の次の姿を考えたい」と話す。